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第11話 これは譲れません★

「ア……──ッ!!」  ガクガクガク、と腰が大きく震えた。同時に伏せた草むらに白濁した精液が飛ぶ。 「……っ」  上でバーヤーンが息を詰める声がした。けれどニコはそちらを見ない。声も上げてたまるか、と草を力一杯握る。  横向きに寝たニコを、片足を肩に引っ掛けバーヤーンが貫いていた。ガンガンと激しく貫いているけれど、バーヤーンは一向にイク気配がない。  早く終われと促したのに、どうしてまだいかないのだろう。ニコはその間にも三回達したというのに。  やがて疲れたのか、バーヤーンはニコのそばに手をついて動きを止めた。ゼェハァと息を弾ませているけれど、ニコに入った怒張は萎えることなくヒクヒクしている。  汗が彼の顔や身体からポタポタ落ちてきて、ニコはその刺激にも身体を震わせた。 「……おい、お前なんか俺にしてるだろ」 「は……?」 「全然イケねぇから何かしてるんだろって言ってんだ」  そんなつもりはない。全くない。むしろ早く終われと……かと言ってバーヤーンを楽しませるのも違うと思って、黙っているだけなのに。 「強烈にいい匂いさせてるくせに、イカせないとはいい度胸だな、あぁ?」  バーヤーンの雄臭い顔に、興奮とは違う意味の青筋が立つ。それと同時に強く腰を打ち付けられ、うぐ! と色気のない声が口から漏れた。  ブルブルと太ももが震える。快感が脳を直撃し、息もままならない。 「お前ばっかイキやがって……。それとも、こうしてもてあそぶのがお前の趣味か!?」 「い、いってない!」  息も絶え絶えにそう叫ぶと、今度はバーヤーンが呻いた。 「ぼ、僕はきみを殺したくないだけだ!」  バーヤーンを楽しませるほど興奮させたら、殺してしまうかもしれない。そう思ってハッとした。  もしかして、その思いが今は足枷になっているのでは、と。だからバーヤーンは達することができないのかもしれない。 「魔族でしかも王族なのに、殺したくない? 笑わせんな」  本気で言ってるのか、とバーヤーンは再び抽送を始める。自分の不随意なところで腰や太ももが震え、バーヤーンを締め付けてしまい、込み上げてくるものに抗えなかった。それは体内で蓄積し、うねりを上げてさらに腰や太ももを震わせる。そしてそれが背筋を通ってうなじまで来ると、ニコはいきたくない、と首を振る。 「嫌だ! ……だって、父上との、約束なんだ! 無駄な殺生はしないって!」  叫ぶと同時に涙が溢れ出た。絶え間なくやってくる波に太ももの痙攣が止まらない。けれど、この快感に負けたらきっと殺してしまう。だからニコは父との約束を口にして自分を保つ。 「殺してしまうと、悲しむ魔族がきっといる! そんなのは嫌だ!」 「く……っ!」  ニコは一瞬意識を飛ばした。バーヤーンを締め上げんとばかりに奥へと(いざな)って、ここに出せと中がうねる。でもこれは、ニコの意志じゃない。 「僕は! 『洗礼』のせいで悲しむ魔族が増えるのは嫌だ! それのせいで僕は産まれなかったかもしれない! 父は……!」 「甘いこと言ってんじゃねぇ!」 「──ああ……っ!」  ドクッ! と中に熱が放たれた。痛いほど腰を掴まれ、その痛みさえ恍惚するような刺激になり下半身が震える。 「あ……っ、く……!」  バーヤーンの背中が大きく反った。顔を顰め、はっ、はっ、と息を弾ませて過ぎゆく快感に耐えている顔は、何だか悔しそうだ。歯を食いしばっている彼の口から牙が少し覗いていて、あれに噛まれたら痛いだろうな、なんて脈絡なく思う。 「く……っそ、何なんだよお前はよ!?」  そう言って、バーヤーンはニコの首を噛んできた。鋭い痛みのあとべろりと舐められて、肩に噛み付かれたまま再びバーヤーンは貫いてくる。 「止まんねぇ……っ、この俺がコントロールされてるのに、お前に自覚ないとか……ふざけんなっ!」 「あっ! あっ! やめろ……っ!」  肩に歯を立てたままなので少し不明瞭だけれど、バーヤーンはニコの誘惑の力でまたやる気になってしまったらしい。  まるで猛獣に噛みつかれているみたいだ、とニコは思う。それに、バーヤーンをコントロールしているなんてまったくの無自覚なのに。止まらない痙攣と、何度も来る絶頂の波に飲まれながら、うつ伏せになった身体で草にしがみつく。 (苦しい……。でも気持ちいい……!) 「うぁ……っ」  自分の中の快感を認めた瞬間、バーヤーンが声を上げた。途端にまた中がじわりと熱くなったので、バーヤーンは達したらしい。  はあ、はあ、と後ろから彼の吐息が耳にかかる。よかった、殺さずに済んだみたいだ、とホッとしていると、ふざけんな、と低い声がした。 「こんな……焦らされたと思えば呆気なくイカされるとか。むちゃくちゃ気持ちいいことさせておきながら殺さないとか……」  あ、気持ちよかったんだ、とニコは思う。けれど今は口にしたらいけないような気がした。  まだ熱い息を吐き出しながら、バーヤーンが草をグッと握ったのが見える。 「ふざけんな。こんなのが魔王の孫とか……!」  目の前で、ブチブチッと草が抜かれた。そしてその拳がニコの顔面めがけて振り下ろされる。  バーヤーンのその声は、心底ニコを軽蔑しきったように聞こえた。  それでも、ニコは無駄な殺生はしない、『洗礼』は撲滅させる、とその拳が当たるまで彼を見据えていた。

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