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第8話 これは怒られるヤツ
言い訳みたいに呟くオレの言葉をかき消すように、オレの腹の虫が盛大にうなる。
途端にラルフの眉間に深い皺が寄った。
あ、ヤバい。これ、怒られるヤツ……。
「まさか食事も済ませていないのか!?」
「コーヒーは飲んだ」
「それは食事じゃない! アリッサ、すぐに食事を用意するよう伝えてくれないか?」
こうなったラルフはもう誰にも止められない。
オレはラルフに見張られながら栄養たっぷりの食事をとらされ、ついでに風呂で手ずから丸洗いされ、そのまま寝室まで連行された。
豪奢なレザーベッドのふっかふかなヘッドボードにゆったりと背を預けたラルフは、自分の膝の上にオレを向かい合わせで座らせて、真正面から見つめてきた。
これはオレに言いたいことがあって、「絶対に分かって貰うからな」と主張するときの、いわばお仕置きの体勢だ。
顔が近くて恥ずかしい上に、懇切丁寧に要望だのお叱りだのを受けた上、最終的にはめちゃくちゃに抱かれてドロドロに溶かされるという恐ろしい展開を、今まで既に三回は体験済みだったりする。
よく考えたら半年に一度くらいはお仕置きされてるオレって一体……って遠い目になるけど、ラルフの目力が強すぎてすぐに現実に引き戻されてしまった。
だって、無言で見つめてくるラルフからめっちゃ圧を感じる。
困ったなぁ。
帰って来るなりエントランスでラルフに捕獲されたんだ。マークに追いかけて貰った、ラルフの『運命の番』の情報だってまだ聞けてない。
お怒りのラルフに交渉材料がないのはマズい。
あ、いや、ちゃんと調べてるよって言えばいいのか。オレはおずおずと口火を切った。
「あ、あのさラルフ。今日のあの、お前の『運命の番』さ」
「まだ決まったわけじゃない」
なんでそんなに怒ってるんだよ……。
いつもはこっちが困るくらい優しいのに、今日は信じられないくらいラルフからイライラしたような気配が伝わってきて怖い。
「そうだけど……でも、確かめなきゃって思って、マークに追いかけて貰ったんだ」
「確かめてどうするんだい?」
「え、だって」
「ビスチェはあのオメガが僕の『運命』だったら、どうするつもり?」
「そりゃ、約束通り身を引くよ」
「ふぅん、発情期はどうするの」
ラルフがエロい手つきでオレの首やチョーカーを撫でてくるから、ちょっとだけゾクゾクしてしまった。でも、ここで流されるわけにはいかない。
気持ちを強く持つんだ、オレ!
ラルフに安心して貰えるように、わざと明るい顔でオレは笑って見せた。
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