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第9話 え、今ラルフが言ったの?
「心配しなくても大丈夫! ラルフが誰よりも誠実なヤツだってのはオレが一番良く分かってるから!」
ラルフが怪訝そうに眉をひそめる。
大丈夫、心配しないで。
「最愛の『運命の番』がいるのに他のヤツなんて抱けないだろ」
それが分かってたから、ラルフを困らせたりしないようにあえて『番』にはなっていないんだから。ラルフにうなじを噛ませたりしないで、本当に良かった。
「お前に発情期の相手を頼んだりしねぇよ。今は副作用の少ない薬も出てるし、別なヤツに頼んだっていい。ラルフを困らせるつもりなんて最初からないよ」
「別なヤツ……?」
ピリ、と空気に亀裂が入ったみたいな気がした。
「ラルフ?」
「ふぅん、そいつには噛ませるつもり?」
オレのうなじを指先でスリスリと撫でながら、ラルフが微笑む。笑顔なのに、なんか怖かった。
「い、いや、まだ分かんないけど」
「そう、分かんないんだ。僕には絶対ダメって言うのに」
え、めっちゃ怖い。
今まで生きてきた中で一番怖い笑顔かも知れない。
「いやだって、ラルフに『運命の番』が現れたらオレ、その後詰むじゃん。実際現れたわけだし」
そう言った途端、ラルフの目が半目になった。
「運命の番、運命の番ってうるさいな」
「へ?」
信じられない言葉を聞いた気がして、オレはラルフを凝視した。
え、今ラルフが言ったの?
いや、まさか。
声だって違ったし、聞き間違いだよな。そうだよ、ラルフはこんな地を這うような怖い声ださない。
「聞こえた? ビスチェはもう『運命の番』って言葉、禁止ね。不愉快だから」
「……!」
ふ、不愉快って……不愉快って、そんなこと初めて言われた。
ふだん絶対にマイナスな言い方をしないラルフの強い口調に、オレはびっくりしてしまって口をぽかんと開けてラルフを凝視するしかできない。
そんなオレを抱き込むと、ラルフは流れるように口づけて、そのまま体を躱してベッドへと押し倒した。
「ラ、ラルフ、待って」
まだ大切な話がひとつもできてない。
なのに、ラルフは俺の耳をくちゅくちゅと音を立てて舐め始めた。
「待たない。そろそろビスチェには分かってもらわないと」
ラルフが囁くと、舐められて敏感になった耳の穴に吐息がかかってくすぐったい。
ヤバい。
これは流されていつの間にか訳が分からなくなっちゃうパターンだ。今日だけは、そういうわけにはいかないんだって……!
「ラルフ! ダメだ……!」
「どうして? 僕の番はビスチェだ」
「だって、『運命の番』が」
「その言葉は禁止だって言っただろう?」
口を塞ぐように、ラルフの肉厚な唇がオレの唇を貪り始めた。
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