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第11話 【ラルフ視点】けなげなのはビスチェだ

もちろん突然の事で、一瞬息が止まるかと思う程度にはびっくりしたが、絶対にこのチャンスを逃してはならないという切迫感の方が強かった。 おっと、僕があまりにも一瞬でプロポーズを快諾したものだから、ビスチェの方が目をまんまるにして驚いている。 誤解しないでくれ、何も考えてないわけじゃないんだ。 ビスチェを安心させるためにも、僕はとりあえず、久しぶりの会話を楽しむことにした。 「あ、でも、なんで急に。どうしたんだい?」 ちょっぴり表情が緩んだビスチェが、えへん、とでも言いたげな得意そうな顔をして見せた。可愛い。 「お前、『運命の番』に憧れてるじゃん」 「まぁ、憧れはあるけど」 それは、その『運命』がビスチェならって意味で、他の有象無象だった場合は別にどうだっていい。 「でもお前って仮にも伯爵家の嫡男だろ? お前がいくら『運命の番』との出会いを待ちたくても後継の問題もあるし難しいだろ。オレなら『運命の番』が見つかるまでの間の繋ぎに最適じゃねぇかと思って」 「ああ、そういう事……」 落胆した。 どうやらビスチェは、僕が『運命の番』とやらをけなげに待ち続けていると思い込んでいるらしい。 僕がビスチェを『繋ぎ』に使うような男だと思われているのは心外だが、まぁいい。結婚してしまえばこっちのものだ。毎日愛を囁いて、溺れるくらい愛情に浸してやる。 僕のほの暗い決意になんて微塵も気づかず、ビスチェは僕を見上げて真剣な顔でこんなことを言い出す。 「たださ、今のオレじゃお前の嫁には相応しくないから、アカデミー卒業するまでにはちゃんと勉強もマナーも恥ずかしくない程度には頑張るからさ。そしたらおじさんにも受け入れて貰えるんじゃねぇかと思って」 ビスチェ……! 感動で震えた。 僕の妻になるために、僕の父に認めて貰うために、毛ほどの興味もないマナーや勉強を頑張ってくれるというのか。魔術以外は心底どうでもいいと思っているくせに。 けなげなのはビスチェだろう……! 「別に今のままのビスチェでも、大歓迎だと思うけど」 「さすがにそんなワケにはいかねぇよ」 無理をさせたくなくて今のままでいい、と伝えたけれど、それじゃビスチェの気が済まないらしい。 僕のためなら大好きな魔術への時間を割いて時間を捻出してくれる気があると言うことは、僕は間違いなく人間の中ではビスチェから一番大事にされているに違いない。 僕のライバルは魔術だけだ。 いっその事、一生かかっても解けないような魅力的な魔術に生まれれば良かった。それなら一生ビスチェに熱い眼差しを向けて貰えるのに。

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