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第12話 【ラルフ視点】悔しい気持ち
「……あれ?」
ふと、気がついた。
「どうした」
「待って……今ビスチェ、後継の問題もあるって言ったか?」
「言ったよ。あるだろ?」
「ある!!! つまりビスチェは、僕の子を産んでくれる気があるって事でいいんだよね!?」
「おま……! そ、そういう言い方すんなよ……!」
真っ赤になってるビスチェ、可愛い。
「でも、そういう事だろう?」
ニッコリと満面の笑みを作ってビスチェの顔を覗き込めば、真っ赤な顔のままちょっと唇を尖らせて唸るように言う。
「そ、そうだけど……!」
嬉しくて心臓が破裂するかと思った。ビスチェが僕とのそんな未来を思い描いてくれていたなんて。
場所がアカデミーの中庭だったから、ぎゅうぎゅうに抱き締めてバードキスを雨のように降らせるだけに留めておいたけど、あれが自室だったりしたらビスチェの貞操はあの瞬間に儚くなってしまっただろう。
……と、そこまで過去の幸せな記憶を思い出して、自分の失態に今更ながらに気がついた。
そうか。浮かれ過ぎて、僕はあの時ビスチェの「結婚は『運命の番』が現れるまでの繫ぎ」発言に、明確に「違う」と言っていなかったのかも知れない。
いやいや、しかし結婚してからのこの二年、僕は好きだ、愛してるの言葉はもちろん、表情も行動も時間も財力も、持てる全てを使ってビスチェに愛を伝えてきた筈だ。
ビスチェだって、いつも恥ずかしそうにはしていても、僕の重すぎる愛を受け止めていてくれたじゃないか。
悔しい気持ちを抱えながら、僕は思いのたけを込めてビスチェの珠の肌を撫で、くちゅくちゅと音を立てながら舌を吸う。
こんなにも愛しているのに。
ねぇビスチェ、僕らはこれまでだってこうして、触れ合った部分から溶け合ってしまいそうなほど濃厚に愛し合ってきただろう?
なのになぜ、ここにきて僕が『運命の番』ごときに惑わされると思うのか。
その答えを探して、『運命の番』だと思われる娘と出会った瞬間の事を思い返す。
あの時。
……確かに、驚いてあの娘を凝視したのは確かだ。
かつて嗅いだことのない馥郁たる香りが強く鼻腔を刺激して、目を上げたらあの娘と目があった。
ビスチェには「まだ決まったわけじゃない」と言ったものの、正直に言ってあの娘は『運命の番』だと僕も思う。なんせあの瞬間にそうだと直感した。
体の奥底に眠る本能を無理矢理引きずり出されるような、暴力的な衝動。
だが、ビスチェに今この瞬間も感じている、込み上げてくるような愛しさとは全くの別物だった。
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