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第13話 【ラルフ視点】思い知らせてやりたい

チュ、と小さなリップ音を立ててビスチェの唇を開放してやる。さんざん口内を蹂躙されて、ビスチェは完全に蕩けた顔をしていた。 「ねぇビスチェ」 「……」 ビスチェはまだ夢見心地な表情で、僕を見上げる。その頬をそっと撫でた。 「僕は結婚してからずっと、全力でビスチェに愛を伝えてきたつもりだよ。何が信じられないの?」 「だってお前……キラキラした目で『運命の番』がどーのこーのって、しょっちゅう言ってたし……」 「ほんの子供の頃の事だろう?」 無言で逸らされた瞳が悲しい。 「でも、『運命の番』は特別だって……本能には逆らえないって」 ビスチェの目からポロ、と溢れた涙を指先で拭いながら、僕はしばし考えた。 なるほど。やっぱり僕の愛は、『運命の番』程度で揺らぐような、そんなものだと思われていたんだな。 でもこれは、むしろチャンスだ。 ビスチェが僕を信じ切る事ができない要因が、『運命の番』に僕が魅了されてしまうんじゃないかという不安だとしたら、それを払拭する事で万事解決なんだろう。 僕がどんなにビスチェに焦がれているか。 思い知らせてやりたい。 「よく聞いて、ビスチェ」 語りかけても目を合わせてくれようともしない。それがビスチェが僕に抱いている疑念の証のようで寂しい。 「あの娘は確かに『運命の番』だったと思う」 「やっぱり……!」 「でも、今僕はこうしてビスチェと共にいる。それが全てだと思わない?」 「……っ」 やっと、ビスチェが僕と目を合わせてくれた。けれどその瞳はまだわずかに揺れていて、不安が払しょくされたわけではないと告げている。 「本能に抗えたんなら、運命の番じゃなかったのかも……?」 「いや、確かに本能を鷲掴んで揺さぶられるような、強烈な衝動だったよ。あんな体験は初めてだった」 少しでも安心してほしくて、僕はビスチェの柔らかな髪をなでながらゆっくりと言葉を紡ぐ。 「あの娘にあの瞬間感じたのは、今思えば強い征服欲だったと思う。でもね、ただそれだけなんだ。そんな歪な関係性はきっといつか破綻してしまうだろうね」 自分の雌を手に入れたいという、動物的な欲求。それも大切な事ではあるけれど。 「僕がビスチェに感じているのはね、あんな薄っぺらい衝動とは違う。もっとずっと複雑な感情だ」 「複雑?」 「そう。ビスチェになら、僕はすべてを差し出せる。なのに、ビスチェのすべてが欲しいんだ」 誰にも見せずにしまっておきたい。 全人類に見せびらかして自慢したい。 自由に好きなことをして欲しい。 僕以外を排除して縛り付けてしまいたい。 「たくさんの相反する感情が常に同居してるから、僕はいつも自分の中で葛藤してるよ。でも、そんな風に複雑な感情が生まれるのって不思議なことにビスチェにだけなんだよね」

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