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第25話 二刻分の薔薇を
「この件は陛下と騎士団に私自ら報告させてもらう。この記録玉と一緒にな」
「い、今の会話を記録していたと……!?」
「言い逃れはできんぞ。ここまでの不敬の数々。私を陥れようとした事。対価はその身で払うがいい」
「お、お待ちください、私は陥れようなどと大それた事は……!」
「そもそも私には生涯愛し抜くと誓った伴侶がいる。私は爵位も貴殿より上の筈だが……私から帰るよう指示があったにも関わらず、意図的にオメガをヒートにさせてまで引き合わせようとしたのは、充分に『大それた事』ではないのかね?」
「ラ、ラルフ様!」
「不愉快だ。連れて行け」
縋ろうとするミクス男爵を汚物を見るような目で一瞥して、ラルフは冷徹な決断を下す。
後にはヒートに襲われたままで悶え苦しむアリアナ嬢が残るのみだ。ラルフの匂いは結界で閉ざしてあるし、この部屋の空気も浄化したから、ラルフの匂いは残ってない筈。少しでも苦しみがマシになってるといいんだけど。
アリアナ嬢はさっきからずっと葛藤しているような様子だった。
きっとラルフが『運命の番』である事は気がついていたんだろう。匂いがなくともラルフに送られる視線はずっと強かった。
蕩けるように、誘うように。
けれどその一瞬の後には悔しそうに、恥じらうように。
目を逸らしては無意識に見つめる、その葛藤がみてとれて、こっちが苦しくなるくらい。
カツ、と音を立ててラルフの足がアリアナ嬢へと向く。一歩、二歩と近づいた時、アリアナ嬢が絞り出すような声を出した。
「近寄らないで……!」
「ふむ」
必死に睨んでくるアリアナ嬢の姿に、思うところがあったんだろう。ラルフは後ろに控えていたアリッサちゃんに一言告げる。
「二刻分の薔薇を」
「かしこまりました」
音もなくアリッサちゃんが退出したのを見送って、オレはおずおずとアリアナ嬢に近づいた。
「……大丈夫? 辛いよね。オレもオメガだから、警戒しないでいいからね」
「ごめんなさい……ごめんなさい、父が……とんでも無い事を」
息も絶え絶えなのに、うわごとみたいに「ごめんなさい」と謝るのを聞いて、オレまで悲しくなった。やっぱり彼女は本意ではなくここにいるんだ。
背中をさすってあげたいけど、きっとそれすら快楽に変換されるだろう。
「そうだ、ヒートを抑える薬……」
「お持ちしました。これを飲んでください。しばらくはヒートを抑えられます」
いつの間にかアリッサちゃんが、ローズティーを持ってきてくれていた。
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