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第26話 愛されて、いるのですね
「あ、これ……オレがヒートの時によく飲むヤツか。ラルフがすぐに帰って来れない時にローズティーが出てくるのってそういう事だったんだ」
今更知った。だからヒートになっても割と落ち着いたままで居られたのか。てっきりオレはヒートが軽いんだと思ってた。
「ヒートの苦しさは僕では分かってあげられないからね。僕が戻るまでの間、少しでもその苦しさが緩和できるように、常に用意してあるんだよ」
「知らなかった……ありがとう、ラルフ」
ラルフがそんな気遣いをしてくれていたなんて。驚きと嬉しさでちょっと感動してしまった。
「……愛されて、いるのですね……」
弱々しい声でそう呟いて、アリアナ嬢がゆっくりとローズティーへと手を伸ばす。オレがいつも飲んでいると聞いて安心してくれたのかも知れない。
ただその手はひどく震えていて、彼女が今現在酷い症状に必死にあらがっているのが感じられる。
アリッサちゃんが手を添えて、なんとかローズティーを飲ませて数分後、ようやく彼女の頬から赤みが引いて呼吸が緩やかになってきた。
「少し、おさまってきた?」
「はい……」
オレが尋ねると、アリアナ嬢は弱々しく頷く。ヒート特有の妖艶さが落ち着いてきたら、アリアナ嬢は清楚だけれど意思が強い、そんな目をしていた。
「話せそうか?」
「はい。この度は父が、本当にご迷惑を……」
「ああ、さすがにあの強引さは迷惑だった。というか明確に犯罪だぞ、あんなの」
めっちゃハッキリ言うじゃん、とオレはラルフを二度見する。
「だが、今聞きたいのはアリアナ嬢、貴女がどう考えているかだ」
「はい……」
「先ほどから言っているが、僕には生涯愛すると誓った伴侶がいる。貴女は僕と顔を合わせた時に、逃げるように立ち去ったが……貴女にも大切な相手がいるのではないか」
「……」
きゅ、と唇を噛んで、アリアナ嬢は迷うような目をした。それはそうだろう。
親は明らかにラルフと縁づいて貰いたいと思っているのだ。しかも捕縛されて行ったわけで、オレが彼女の立場だったとしても、きっとどう言えばいいのか迷うに違いない。
「正直な気持ちを言って欲しい。悪いようにはしないから」
ラルフから重ねて問われて、しばらく逡巡していた彼女は、キッと凛々しく顔を上げた。
「実は……わたくしにも、心に決めた方がおります」
「……!」
「やはりか」
ラルフの声にも、ホッとしたような雰囲気が混ざった。ラルフなりに確信めいたものはあったようだけど、それでも不安だったんだろう。
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