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剥がされた家庭03

 伯母さん、泣いてた。  電話を切った後に罪悪感に苛まれる。  またすぐに電話が鳴る。 「……もしもし」 「瑞希! 大丈夫か?」 「金原……」  俺は堪えきれず涙を零した。  壁にもたれて座り込む。 「あれ、本当なのかな」 「瑞希……」 「金原はどう思う?」  母さん達、生きてるかな。  こんな残酷な質問、よくできるな。  俺。  金原が黙る。 「あり得ねーよ……」  俺は息を吐いてもう一度云う。 「あり得ねーよ」  電話は留守にした。  美里の元に戻る。  泣きはらした眼。  美里はまだニュースをぼーっと見ていた。 「――バスは峠より転落して、数百メートル転がったそうです。落下の衝撃で車体は歪み、漏れたガソリンに点火して爆発を起こしました」 「映画……みたい」  そのとおりだ。 「お兄ちゃん、美里たち、孤児になるの?」  胸が締め付けられる。 「まだ、母さん達は生きてるかもしれないだろ」 「生きてる……じゃあ、あの病院に連れて行って」  美里は画面を指差す。  それは、県境の総合病院だった。  今から出れば、八時には着く。 「……あぁ、行こう」  行ったら後悔する。  きっとする。  そう二人とも感じていた。  それでもこのまま眠るなんて不可能だから。  電車に揺られる間、ずっと床を見つめていた。  帰宅ラッシュを回避出来て良かった。  今は座らないと息できない。  電車が止まる。  美里の手を引いて降りた。  携帯のマップを頼りに病院に向かう。  見たことない街。  美里の手を強く握った。 「ご家族の方ですか」  看護師に案内される。  集中治療室かな。  病室かな。  そんな希望が打ち砕かれる。  運ばれたのは、霊安室。  周りにも沢山人がいる。  みんな、見舞いに来たんだ。  きっと。 「どうぞ」  足を踏み出す。  灰色の部屋に、真っ白な布。  俺は美里の手を離さないで、それを捲った。 「…!」  美里が後ずさる。  俺も驚いて身を引いた。  思わず口を塞いだ。  臭いを吸いたくなくて。 ―エンジンに点火して爆発―  嫌だ。  こんなの嫌だ。  俺は涙を拭いて、美里を起こした。 「母さん……に、お別れしなきゃ」 「うそだよ……」 「美里」  嘘じゃないよ。  これは現実。  俺たちは、孤児になったんだよ。

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