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晴らされた執念06

 類沢の冷たい声が空気を貫いた。 「どうもそうは思えませんが」 「な、なにを言うの」 「今の生活は楽しいですか?」  襟梛はカタカタ震えた。  まるで、一瞬で心の内を暴かれたように。 「私の意見で恐縮です。ただ、こう見えるんですよ。貴方は今の新しい生活を大切に思っていらっしゃる」  金原を一瞬見る。  そうか。  昨日報告を受けたのか。  金原が襟梛の家に行ったことは車で聞いた。 「幸せが募るほど、不幸は煩わしい存在になります。だから過去は出来たら忘れたい。私には貴方が過去のしがらみを、ただ断ち切りたいように見えるのです」 「あ……」 「ただの推測ですがね」  類沢はニコリと笑い、襟梛の前に立つ。 「車の後部座席に、何を敷いているんですか」 「あ……あぁあ」  俺は眉を潜めて、そちらを見る。  一瞬早く金原が声を上げた。 「ミラーからも見えましたよ、ブルーシートが」  襟梛はヨロヨロと車にもたれる。  キッと俺達を睨んで。  類沢の声のトーンは変わらない。 「まだ何もしていないんです。何もしなくていいかもしれませんよ」 「よく確証も無いことを」 「よく確証も無く殺す気でいられますね」  沈黙が走る。  類沢は避けもせずストレートに尋ねきった。 「……帰って下さい」  襟梛は玄関に向かう。  門に伸ばした手を走って止めたのは俺だった。  彼女も予想外だったようだ。 「瑞希……くん?」 「俺はっ」  感情を抑える。 「俺は、危うくアカを人殺しにするところでした」 「え?」 「アイツは……親友の為なら院に入るのも厭わない奴です」  息を吸う。 「その時、庇ってくれたのが其処にいる類沢先生だったんです」  類沢は突然名前を呼ばれ、片眉を上げた。 「俺と金原はアカの親友です。そして、類沢先生は恩人です。アカを助ける権利は俺達にもあるはずですよね」 「その通りだな」  カタリ。  全員が玄関を振り向く。  低い、透き通った声。  それでいて脳までこびりつく声。 「あなた…」  襟梛が殺気立つ。 「あぁ、久しぶりだな。今更何の用だ、襟梛? 娘が出来たみたいじゃないか」  ビクリ。  不意打ちを食らったように、彼女は怯んだ。  男はフッと口元を緩めて笑う。 「櫻だったか? 可愛い娘らしいじゃないか」

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