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晴らされた執念14

 ゴキン。  いきなり鳴った快音に男が怯む。  首、鳴らしただけなんだけどね。  類沢は傾いた頭のまま立ち止まる。  それからゆっくり首を戻す。 「近寄るな」 「無理な相談です」 「近づいたら刺す」 「知ってます」  残念だけど、紅乃木哲の方が隙が無かった。  類沢は目を細めて男を見下す。  中肉中背。  力はあるが、人並み程度。  さっきまでの余裕さえ無くなれば、ただの人間だ。  間合いの取り方も下手。  人質にしているつもりだけど、部屋が広いから殆ど意味を成さない。  唯一、行動を阻むのは  男の眼。  据わっている。  そして、異常。 「愛してる……」  男は譫言のようにブツブツ云う。 「哲を愛してるのは他にいない。おれだけなんだ……一人になってしまった哲を守るのは、おれしかいない。ずっとこの身体を守って、誰にも触れさせない」  ズキ、と頭が痛んだ。  記憶が押し寄せる。  男の言葉が、自分の声で反芻する。  歪んだ愛。  もしかしたら、僕はこの男と同じ人間なのかもしれない。  自嘲気味に笑う。  だったらなんだ、類沢雅?  自分も笑い返した気がした。 「アカ!」  金原が後ろから現れた。 「哲!」  母親も。  瑞希を一人残してきたのか。  その気持ちもわかる。  男に視線を戻す。 「どうしますか?」 「……こうだ」  ナイフを振りかぶる。  紅乃木哲を抱き寄せ、その首元めがけて勢い良く振る。  首にナイフが触れる。  そんな寸での所だった。  男の手を掴んで止める。  危なかった。  薄皮一枚は切れただろう。  手が震えている。 「心中する気?」  男は片手で息子を抱き締めた。 「離しなさい」  襟梛が進み出る。 「離しなさいよ」  上着の中に手を入れ、包丁を男に向ける。  流石は元家族だ。  類沢は呆れつつも手を掴む力は弱めない。  金原も勢いに圧され、壊れたドアの前で立ち尽くしている。  瑞希がいなくて良かったかもしれないな。  類沢はその空間を見て思った。 「お前は哲をどうしたいんだ」  男が尋ねる。  むしろ、彼にこそ訊きたかった質問ではあるが。 「あなたから守りたいの」 「それを哲は望んだのか」 「望んでいなくてもいい」 「それは哲のためなのか」 「あなたが云わないで!」  襟梛が声を荒げた。

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