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晴らされた執念16

 類沢が駆け寄ってくる。  手にはナイフが握られていた。  アカのかな。 「大丈夫なの?」 「なんとか……」  フラついた体を金原が支えた。 「無理すんなバカ」 「いや、今は無理しなきゃ…」  アカの父が見ている。  足元のアカもうっすら目を開いた。 「アカのお父さん。いえ、元お父さん。さっきの言葉を直して下さい。アカには、今は学校に友達が沢山います。その中でも、俺と金原は互いに命懸けて守り合える親友なんです」  金原が力強く頷く。 「さっきから好き勝手にアカをモノみたいに云いますけど、本当にアカのこと想っているなら殺せますか? 俺はそうは思わないです。そんなの愛じゃない、ただの狂信、いや妄信です。そんな愛、親から貰いたくもない」  部屋には俺の声だけが響いている。 「それに……それはなんです?」  アカの首と足に絡みつく重たい鉄を指差す。 「そんなもの付けなきゃ息子を留めておけないなんて、絶対におかしい。あなたがやってることは、ただ自己満足するだけの犯罪です! 犯罪だよっ!」  段々と熱が入った。  ハァハァ、と息を整える。  襟梛が目を見開いて俺を見ている。  アカの母親。  あんたも、何か云えよ。  そう思えてくる。 「ありがと、みぃずき」  ドッ。  何かが刺さる音が木霊した。  抱えられたアカの手が、父親の胸元に掲げられている。  その手には、ナイフ。 「おれは、あんたを許さない」  襟梛が悲鳴を上げた。  アカが手を下ろす。  全員が息を呑んだ。  カラン。  同時に、拍子抜けする音と共に、ナイフが床に跳ねた。  血は、ついていない。  アカが茫然とする父を押し、立ち上がる。  それから落ちたナイフを拾った。  刃にもう一方の掌を当て、勢い良く刺す。  だが、手が切れることはなかった。  ただナイフが柄の中に潜り込んだだけで。 「安心して。母さん」  アカが力無く笑む。 「オモチャだから」  襟梛が崩れた。  床に尻をついて、呆気にとられている。  たった今、息子が父を亡き者にしたと思ったのだから、そうだろう。  俺も脱力して、金原にもたれた。 「なんで……」 「なんで? 決まってるじゃん。父さん?」  アカは首輪を掴んで、静かに微笑んだ。

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