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晒された命18

 寒気がする。  紅乃木父の目を思い出す。 「理由は?」 「出来たら言いたくないんだけど……」 「なんで?」 「だって西は……」 「なに?」  これは言うべきだろうか。  いや、言わなきゃ、多分流れは変えられない。  この空気に耐えられない。  口が重い。 「なに?」  雅樹は静かに繰り返した。 「裁判なんてやる気はないんだろ」 「……は?」  俺は椅子を引き、立ち上がった。 「実は、副本を読ませてもらったんだ」  雅樹が黙る。  目が泳いでいる。  その右手が震えながら胸元を漂う。 「あの内容に、どこに俺が必要になる?」  ピタリと手が何かを押さえる。 「西。お前は一人で戦うんだろ。俺は先生に虐待なんてされてないし、証言も証拠もない。むしろ邪魔なだけ。俺に何して……いや、類沢先生をどうしたいの?」 「ははははっ。面白いな、お前」  いきなり轟いた笑いは朝日すら眩ませる狂気が滲んでいた。  ああ、やはり俺の勘は間違っていなかった。 「どうしたいと思う?」  ここで答えたらどうなるんだろう。 ―決断の時が来てるよ― 「さあ。ただ俺は……」 「協力してくれるか?」  ガンッ。  ビクリと肩が震えた。  机に刺さったものを見て、目を見開く。 「俺はさ……必死なんだよね。余裕ないくらい」  クッと手首を曲げ、それを抜き取り切っ先を唇に這わせた。  今にも肉を突き刺しそうな刃に鳥肌が立つ。  だが雅樹は気にも留めず、冷めた目で俺を見つめた。 「協力、してくれるか?」 「……何を?」  雅樹は歪んだ笑みを浮かべ、俺の肩を掴んで二階に引っ張り上げた。  部屋のドアを蹴り開け、ベッドに投げ飛ばす。  先生でもこんな乱暴なマネはしないんだけど……  雅樹はバラバラっと音を立てて釘を撒いた。  一瞬で、部屋が異様な空気に包まれる。 「なに……して」 「なぁ、宮内。本題に入ろうか」  俺は身も起こせずに、雅樹を目で追った。  ジャンパーの中から小さなボトルを取り出し、手の中で転がす。 「雅先生は先生の資格があると思うか?」 「え……」  そんなの答えは一つだ。  ない。  ハッキリ言わせてもらいたい。  教師を辞めて欲しくないのと、教師が向いていると思うのは違う。  だが、俺は刺激しないよう口を結んだ。

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