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晒された命19
「俺はないと思う。だから裁判の条件をああ決めた」
ボトルの蓋を外す音が聞こえる。
「免許と一緒に、過去も消せればいいのに……」
「俺を使って先生呼び出す気?」
「宮内はこれを飲むだけでいい」
チャプンと液体が揺れる。
「なにそれ」
「睡眠薬」
「なんで?」
「聞かれたくない会話だってあるだろ」
「なんで?」
「……煩いな。無理やり飲ますのイヤなんだよ」
雅樹がユラリとベッドに近づく。
俺はかろうじて右手を上げ、制した。
「一つ約束したら飲む」
本当は死んでも飲みたくないんだけど。
どうせ飲まされる。
さっきの腕力でわかる。
こいつは喧嘩慣れしてる。
「約束?」
雅樹が体勢を戻す。
ボトルを指先で持ちながら、話を促した。
「類沢先生に交渉したいことがあるんだよな」
「まあね」
そこは隠す気はないのか。
どこが境界かわからない。
脈が聞こえる。
喉が渇く。
「ソレさ、類沢先生に向ける前に、俺に向けてくれない?」
雅樹は指で差されたものを見下ろし、眉を潜めた。
「死にたいの?」
「違くて」
俺は苦笑しながら否定する。
そして、嫌な予感が的中したことを悟った。
西雅樹。
あんた、今なんて言った。
指が震える。
肌に寒気が走る。
夢に現れた写真。
俺と類沢に銃を向ける西。
類沢はその銃口を持って自分に向けていた。
頭の後ろがピリピリと痺れる。
「約束だから」
俺はボトルを奪い、飲み干した。
その、フリをした。
雅樹はフッと笑って下に降りて行った。
足音を確認してから、口に含んだ液体をそばのティッシュに吐き出す。
あぁ、ダメだ。
瞼が下がる。
一口は飲んでしまった。
布団に身を任せる。
体から力が抜ける。
雅樹が来た時点でメールをすれば良かったな。
そしたら、類沢先生は来ないで済むのに。
どんなにそれが良かったか。
だって、雅樹は確実に類沢を殺す気でいるから。
その覚悟でいるから。
怖い。
あんなに淡々と殺意を曝す人間を初めて見た。
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