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晒された命22
ゴムを解き、髪を下ろす。
今は脳を圧迫するものを取り除きたかった。
考えがまとめられるように。
目が床の模様を意味もなくなぞる。
成功率は五十パーセント。
脳に障害が残る可能性もある。
かつて、同じ状況を見た。
施設で階段から落ちた同級生が、救急車に運ばれた時だ。
元々、抵抗力の弱い男子だった。
病院に運ばれ、次の日には名簿から名前が消えていた。
髪を裂くように指を入れ、頭を抱える。
あの子が五十パーセントを掴めなかった分、今瑞希に残りの五十パーセントを与えられないだろうか。
二人に一人が死ぬならば、あの子の死を瑞希の生に替えてやりたい。
落ち着け、類沢雅。
できないことを考えても仕方がないだけだ。
口を押さえ、深く息を吐く。
―クリスマスまで……ここにいない?―
あの時、もっと強く云っていれば、瑞希が雅樹に会うことはなかったかもしれない。
ダンッ。
膝に拳をぶつける。
足音が近づく。
類沢は指の隙間から人影を見た。
うなだれて、歩く男を。
「雅樹?」
「……宮内は」
目線で手術室を示す。
雅樹は目を見張り、それから椅子に座った。
ギシリ、と音を立てて。
涙の跡がそのままだ。
顔も洗わず来たんだろう。
呆然と宙を睨んでいる。
瞬きをした途端、ボロボロと涙が溢れ、彼は咽いだ。
「……ごめん、なさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
何回も。
何回も、繰り返す。
「雅樹」
ビクッと背中を震わせる。
「僕を殺したいなら、なんで瑞希を巻き込んだの?」
蛍光灯が不規則に点滅する。
切れかかっているんだろう。
「俺……俺は」
目線が泳ぐ。
脚が小刻みに床を叩く。
精神状態なんて、見るまでもなく、普通じゃない。
それはそうか。
たった今にも、人を殺めた罪に覆われそうなのだから。
「宮内が……あんなことするとは、思わなくて」
「だろうね」
「違うんです。あいつ……あいつ、こう約束しろって言ったんです。自分にまず釘を向けろって」
自分に、向けろ?
「俺……俺、意味わかんなくて……でも、約束だから……だから」
「だから瑞希を一旦刺そうとして、僕に向かって来たんだ」
つまり瑞希は、そこまで了承したうえであの場にいたのか。
「まさか、前に出て来るなんて……っ……薬だって効いてたはずなのに」
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