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晒された命23
「睡眠薬は、なんで飲ませたの」
雅樹が黙る。
カタカタと震えたまま。
さっきまでとは別人だ。
類沢は少し語気を強めた。
「お前が飲ませたせいで、手術が成功しても……脳に後遺症が残るらしいよ」
「えっ」
身を起こした雅樹の顔が、クシャクシャになる。
枯れない涙を何度も拭う。
「なんで飲ませたの」
「自分から飲んだんですっ!」
余韻が空気に漂う。
「お前、ナニ言ってんの」
「本当です。俺からボトルを奪って、自分から……あ……」
雅樹がある事実にたどり着いたように固まる。
「だから……動けたんだ」
「なんの話?」
「絶対に、飲み干したら一日は動けない量だったんです。なのに……あのとき動けたのは……飲むフリをしたから」
わざと飲むフリを?
なんのために。
思考がある光に向かい走る。
なら、瑞希の意識はあったのか。
あの会話の間。
雅樹が手を上げる瞬間を待って。
何時間経ったんだろう。
雅樹がズルリと壁にもたれたまま倒れる。
何本もの涙の跡。
やっと、気づいたか。
雅樹。
自分に。
類沢は額を押さえ、目を瞑った。
眠気はなかった。
ただ、霞がかる視界は、自分もおかしくなりつつあるのを示していた。
幼い頃の感覚と、同じように。
同級生が殴りかかって来た瞬間。
瀬々晃の背中を踏みつけた瞬間。
紅乃木父の玄関に入った瞬間。
頭のどこかで、何かが消える。
今にもそれが消えかかっていた。
自制が効かなくなる警告。
冷たい手で、携帯を見る。
午前四時。
発信ボタンを押し、無言で待つ。
廊下の向こうの硝子越しは、まだ暗い。
「もしもし」
「やっぱり今日は帰ってくれないかな」
「雅……」
「もし、今のまま帰ったら……見境無く殺してしまうかもしれない」
ドクドクと。
携帯を握る手から、獰猛に駆ける血の振動が伝わってくる。
通話を切って、暫くそれを手の中に包んでいた。
壊さぬように。
崩さぬように。
ガチャン。
全神経が目覚める。
顔を上げると、手術室の扉が開くところだった。
血まみれの服と、手袋。
執刀医らしい男が、マスクを外して会釈する。
彼の後ろの室内は嫌に白い光で満ちていた。
「宮内瑞希さんの……」
「教師です。養護教諭をしています類沢雅と申します」
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