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晒された命24
「ほぉ。先生ですか」
「瑞希は」
「幸い手術は成功しまして、一命は取り留めたのですが」
医師が言葉を切る。
横を今にも倒れそうな助手たちが歩いて出て行く。
指示を出し合いながら。
「……一時的に、心拍が止まりまして、脈は戻りましたが、意識の方は」
鼓膜が閉じていく。
医師のセリフが聞こえなくなる。
口だけが動いている。
汗を拭き、溜め息を吐きながら。
サイレント映画を観ている気分だ。
人が去ってゆく。
瑞希が連れていかれる。
沢山の器具をつけていた。
その一つ一つが揺れても、なんの物音も聞こえなかった。
看護師の一人に病室の番号表を貰い、立ち尽くした。
誰もいなくなり、手を下ろす。
カサッ。
紙がコートに擦れる。
突然世界が騒がしくなった。
機械の振動。
遠くを歩く医師の話し声。
雅樹の寝息。
蛍光灯の電子がぶつかる音。
激しい頭痛に目眩がする。
黙ってくれ。
車に乗り込み、アクセルを踏む。
まだ眠る街を止まらずに駆ける。
煙草をくわえ、咬み千切る前に灰皿に潰す。
信号が赤く光る度、体が熱くなる。
邪魔するな。
頭を押さえ、耐える。
ギキッと音を立て、自宅前に車を止めた。
車庫入れなど考えられなかった。
扉を開き、中に入る。
弦宮達はいなかった。
無音。
床の感覚も無く、リビングを過ぎ、寝室に向かう。
壁際のスイッチを点けようとした手が滑り、机に落ちた。
指先にデジカメが触れる。
瑞希が来た晩、使ったんだった。
それを床に捨てた時、小さなメモに気づいた。
昨日の朝はなかったはずだ。
霞む視界で紙を摘む。
弦宮か。
いや、筆跡が違う。
これは……
類沢先生
カメラのメモリは預かります
こんな所に放置しちゃダメですよ
裁判が終わったら、お返しします
瑞希の字。
下半分が何重にも折られている。
開いて、現れた一文。
強く、濃く書かれた一言。
死なないで下さい
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