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晒された命25

 指先から紙片が落ちる。  口元が笑い、無様に歪む。 「ふ……くく。こっちのセリフだ」  ああ。  消えた。  何かが消えた、感触がした。  ガンッ。  椅子が壁にぶつかり、一瞬後に落下した。  宙に浮いた足が、そっと地に着く。  痛みは無い。  ソファに手を掛け、一気に背から床に叩きつける。  連続して支柱の木が折れる。 「はは……あはははっ」  弾けた綿が散らばる。  いっそ、視界を白く埋めてしまえばいいのに。  ガタン。  棚が倒れる。  本が舞う。  ガラスが割れる。  ワインが流れ、手が赤く濡れる。  息を吐いて、部屋を見渡すと、原型を留めているものなどなかった。  白い壁にもたれ、煙草をくわえる。  火を点け、ライターを投げる。  空中で熱だけ残して火が消える。 「あーあ……」  荒れた部屋を眺める。 「こんなんじゃ、瑞希呼んで麻那さんと食事出来ないね」  煙を吸い、煙を吐く。  味はしない。  ただ、肺を汚すだけ。  破片が刺さったんだろうか。  血が垂れる腕を見下ろす。  釘の刺さった瑞希の腕が重なる。  西雅樹を、助けて。  あんな状況で、よく自分を傷つけた人間を心配できるね。  馬鹿な瑞希。 「馬鹿はどっちだろうね」  朝日が無遠慮に、カーテンを貫き照らし出す。  チャイムが鳴る。  二時間ほど寝ていたみたいだ。  乱れた服と、壊れた部屋をそのままに立ち上がった。 「はい?」  眩しい朝日の中に、彼のシルエットが浮かび上がる。  シャツの裾を握り締め、どうしたらいいかわからない顔をして。  癖の残る髪は、帰っていない証拠。 「お……おはようございます」  段々小さくなる声に頬が緩む。 「入ったら? 足の踏み場もないと思うけど」  顔を上げて、少しだけ微笑んだ雅樹はぐらりと傾いた。  抱き留めた手から力が抜け、二人で玄関に倒れる。  靴箱に肩でもたれ、両腕の中に雅樹を包む。 「寝不足だね」 「先生こそ」  見下ろしたうなじには沢山の引っ掻き傷が残っている。  それを撫でると、雅樹が身を起こした。 「……怒ってないんですか」 「右を見たらわかるよ」  恐る恐る右に向けた目を見開く。 「怒ってるじゃないですか」

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