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認めたくないこと03

「そんなこと言ってもオレそんな速くねーぞ?」 「ウサギより遅いもんな」 「それは言うな忍っ。てか、本気出したらぜってーお前のが速いんじゃねえの?」 「バカいえ。こんな華奢な子捕まえて何言ってんだこのおじさん」 「いいから並べ、スタートだぞ」  教師が俺と拓の背中を白線の前に押しやる。  つまりは先頭だ。  軽く睨みつけると、教師は笑顔でピストルを構えた。 「なあ、忍」 「あ?」 「本気で勝負しねえ?」  足首を回しながら。  やる気満々に。  俺も釣られて体操をする。  周りの男子がその様子にざわついた。 「勝ったらなんでもゆうこと一つ聞く」 「二つだ」 「おっけー。聞いたな、お前ら!」 「なっ、てめ! 他を巻き込むな」  後ろを振り返りガッツポーズをした拓に拍手が起きる。 「拓に二千円!」 「忍に五百円!」 「たっくんに明日の昼飯!」 「プリンセス忍に夜明けのコーヒー!」 「いるか、クソが」  バカ騒ぎを始める同級生を軽蔑の目で眺める。  教師もニヤニヤするほどの盛り上がりだ。 「忍におれの童貞!」 「いらねーよ、お前のしょうもねえ奴なんか。それよりおれのを貰ってくれ忍!」 「お前も同レベルじゃんか、アホ」  乗って早々後悔し始めてきた。  ああ、腹が痛え。  頭もだ。  突然前半組から声が上がる。 「忍に賭けるから勝ったら拓を殴らせろっ」 「なんでだっ結城!」  笑いが広がるその勢いのままに心地よい発砲音が響いた。  最初から二人だけが先頭に飛び出る。  拓は一瞬俺を見てニヤリと笑うと、スピードを上げた。  地面を蹴る。  強く。  速く。 「どうせ後半バテンだろ、バーカ」  そう言いながらも遅れないようにペースを上げる。  久しぶりだ。  こんなに本気で走んの。  そうだ。  最後はあのジャシファーを追いかけた時だったな。  笑いがこみ上げる。  やべえ。  ニヤついて走ってる俺気持ち悪い。

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