38 / 115

認めたくないこと04

 翌日、机の上に山となった購買のパンを見てまた頭痛が再来する。  数にして五十以上だ。 「なんだ……このジャムパン率の高さはよ。俺はメロンパンのが好きなのに」 「そんな忍にオレからメロンパンを進呈しようっ。一日限定二個販売の富良野メロンパン二百六十円ナリだぞ!」 「ありがとなー」  機械的な声でそう言って拓から袋を奪い取る。  山を崩さないように慎重に椅子に座った。  昼休みになって便所から帰ってきたらこの有様だ。  こいつらどうやって五分でこの状況を作り上げたんだ。  メロンパンにかぶりつきながら教室を見渡す。  事情の知らない女子を除き、全員がこちらを窺っている。 「忍ちゃん、おめでとー」 「その呼び方やめろ、万年発情期」 「じゃあその呼び方もやめてよ。おれはハニー一筋なんだから」  結城が当たり前のように頂上のサンドイッチを貰う。  食べきれないから丁度いい。  それに、サンドイッチは好きじゃない。 「しっかしビビったよ。忍ってあんな速く動けるんだな」 「どういう意味だソレ」 「だっていつもこう……のぺーってしてるから」 「のぺー?」  唇に付いたクリームを手の甲で拭いながら拓を見上げる。 「いや、オレものぺーっはよくわかんねーよ」 「よかった。てめえがわかんないなら異常なのは結城だ」 「なんだそれえっ! わかるだろ、こうあんま動けない感じ……ってかほら。約束覚えてんだろっ。拓を殴らせろって」  二個目のメロンパンを開けながら却下する。 「貴重な二つの一つをなんで発情期の為に使わなきゃなんねーんだよ」 「短くなったけど、まだ違う! で、決まったの?」  結城の質問に二秒ほど静止したが、答えるのが面倒になった。  三個目を手にとって席を立つ。  拓は察してすぐに追ってきた。  昼休み、俺は大抵教室にいない。  裏庭で拓とぐだぐだするのが好きだから。  まあ、単純にこのバカ……同級生たちの喧しい冷やかしに付き合ってられないからだ。  教室の扉を抜ける寸前に声が届く。 「お持ち帰りかよっ」 「バカ言ってんなよ、結城」 「やっと名前で呼んでくれた……っ」  ふっと笑いが溢れる。  入学当時は不安で仕方なかったが、地域最悪の治安とはいえ結構住みやすい中学校だ。  ここは。

ともだちにシェアしよう!