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認めたくないこと14

 駆け寄ろうとして、ぬめつく床に思考が停止する。  ライトの向きを変えて、足から頭の方を照らし出していく。  濡れた体。  乱れた髪。  そっと頭を抱える。 「し、のぶ」  目を瞑って、眠るように意識を失っている忍。  その唇は白濁に塗れ、涙の跡が残っている。  急いで着てきたコートを被せ、冷たい腕を摩る。  下半身は目を向けられなかった。  抱き寄せた忍のカラダは余りに弱々しい。  それが自分を狂わせそうで怖くなる。  崩壊しそうな理性をなんとか保たせないと。  なるべく忍の体を見ないようにして名前を呼び続ける。 「忍、オレだ。忍」  大丈夫か。  起きろ。  もう誰もいないぞ。  起きてくれ。  言葉が続かない。  なんで。  なんで、オレは今日忍を置いていったんだろう。  なんで、こんな危険な環境だってもっと強く言わなかったんだろう。  なんで、結城にオレの代理で忍を守れって頼まなかったんだろう。  クラスの奴らだけじゃない。  何人の下卑た男が忍を監視しているかわかってたのに。  そういう連中から守ってきたのに。  入学してからずっと。  休み時間に一人に絶対させなかったのに。  保健室にも行かせなかった。  あそこは巣窟だって知ってたから。  忍。  なにがあったんだ。  なんで、ここにいるんだ。  誰がやったんだ。  結城のバカ野郎はお前を守ってくれなかったのか。  メールの一件してくれたら駆けつけたのに。  いや。  お前は一切悪くない。  ぎゅっと抱きしめる。  せっかく同じ中学に来てくれたお前を守れなかったオレのせいだ。  女生徒は学年の二割という環境で、どれほど弱い男子が対象にされているか。  その実態をお前は知らなかったんだろ。  風紀委員がどんな横暴な奴らかも知らなかったんだから。  お前は周りに興味がなさ過ぎたから。  全部。  全部。  オレのせいだ。 「忍……」  泣きそうな声で呼ぶ。  どうすりゃいい。  お互いに家族を頼れない。  この傷ついた忍をどこに連れて行けばいい。  子供の自分がやるせない。   

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