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一周してわかること10

 結局昼は渡り廊下のベンチで食べることに落ち着いた。  日差しが当たる温かい廊下は時々生徒が通るとはいえど居心地最高だった。  忍が食べ終わったパンの袋をクシャクシャに丸めてオレのポケットにねじ込む。 「おい」 「ごちそーさん。肩貸せ」 「え」  忍の髪の匂いがふわっと舞う。  オレの肩に頭をもたれかけて忍は眼を閉じた。  キャップの外したお茶を持ったまま動けなくなってしまう。 「し、しのぶちゃん? ここで寝る気?」 「五分」  そうっとお茶をしまい、なんとなく背筋を伸ばす。  生徒が通るたびにこちらをちらっと見た。  女子の集団にはなぜか指を差して笑われた。  けどそんなのは全部意識の外で起こること。  オレは胸元にかかる忍の息に自制心を失いそうになっていた。  だが、そういうときに限って必ず時間が邪魔をする。  キーンコーン……  音の余韻が消えないうちに忍はダルそうに身を起こした。 「んん……ちょっと寝てた」 「おはよう」 「おー。行くか」  立ち上がった忍がオレの両腕を引っ張って立たせた。 「てめえまで眠そうだなあ」 「忍のがうつったんだよ!」 「人をウイルスみたいに言うんじゃねえよ」  こうして一日に忍と三十分ほどしか校内で過ごせない日々を送った。  登下校は一緒でもお互い自転車だから会話もそれほどしないうちに着いてしまう。  進学校ということで課題が多いからという理由で忍はあまり寄り道しなくなった。  それがさみしい。  しかし試練はまだだった。  夏休み目前に忍は帰り道ぽつりと言った。 「俺アメリカ行くことになった」 「へー……は!?」  自転車を止める。  忍は背中まで伸びた髪を靡かせてオレを見る。 「夏休みのホームステイな」 「何日?」 「三週間くらいか?」 「マジで?」 「おう。ババアに頼らないためにも進路を決める経験は重ねときたいからな」 「やだ。忍が優等生みたいなこと言ってる」 「なにが不満だ、てめえ」  全部が不満だ。  せっかく夏は忍とゆっくり過ごそうと思っていたのに三週間も海外に行くなんて。  どうあっても追いかけるなんてできない。  項垂れたオレの頭を忍がぽんと叩く。 「夏は」 「向こうで浮気すんなよっ!」 「まだ何も言ってねーだろうが。しかも浮気ってなんだ。意味わかんねー」

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