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一周してわかること21

「父さんと姉さんがアメリカから突然一時帰ってきてさ、病院に全員で行ったんだ。医者の話聞きに。そしたら、余命一か月ちょっとだって」  声が闇に溶けていく。 「それ……いつの話だよ」 「クリスマスの前あたり」 「じゃあ、こんなとこいる場合じゃねえだろっ」  ボタリ。  拓の線香花火が消える。  俺の足元のものも消え、蝋燭の光だけが残った。  白い息が闇に揺れる。 「小学校からずっと、オレは母さんの見舞いに通ったよ。何年も何年も」  拓は温度のない声で続けた。 「父さんが来ないことに怒りを感じたりもした。花さえ贈んないのかって。そんなに仕事が大事かって。だって妻のそばにいるのは夫の役目だろ。病弱していく妻から逃げる男があるか、普通。忍は何回か行ってくれたよな」  そうだ。  あの初対面から二度と遊んではいけない忠告までされたくせに拓は「オレの親友」だと堂々とオレを紹介したんだ。  呆気にとられたあの顔は今でも浮かぶ。  けど、それからは俺への目もやさしくなった。 「母さんは一向に良くならなかった。そこで知ったんだ」  一瞬言葉を切ってから拓は続けた。 「ずっと一緒にいるからって何かが変わるわけじゃないんだって」  ヒュッと氷みたいな風が吹いて蝋燭を消した。  真っ暗な中で拓の顔だけが辛うじて見える。 「だったら、オレは忍と一緒にいる時間も大切にしたい」  月が雲に隠れて、それさえも見えなくなる。 「そう言ってくれるのは嬉しいけどよ……」  俺は震える唇で答えた。  おそらく、あのころから思ってきた暗い一言を。  今しか言えない気がして。 「俺達だって、ずっと一緒にいるから何かが変わるわけじゃねえだろ」  次に月が姿を現したとき、拓はバケツを持って背中を見せていた。  顔を見せずに。 「もう戻ろうか」  それだけ言って。

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