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時針が止まる時16

 葬儀が終わってから、世界はいつも通り動いている。  けどオレは大学に行けずに毎日部屋でなにをすることもなく過ごしていた。  結城は何度か見舞いに来た。  オレが生きてることを確かめるみたいに。 「置いとくから食えよ」 「さんきゅ」  食欲なんてどこから来てたんだ。  寝転がっては忍の部屋の鍵を指で転がしていた。  忍の母親と会ったのは、あれが最初で最後だ。  多分、もう会わない。  たまに涙が浮かぶけど、なんに対してなのかはわからない。  記憶が押し寄せては引いていく。  あまりに長く、一緒にいた。  だから、音の聞こえてこない隣室はどこか別次元に思えたんだ。  忍。  いないのか。  鍵を差し込みかけてはやめる。  郵便受けにはチラシが詰まってる。  ここの住民のために刷られた広告。  まとめては捨てた。  葬儀から三週間後。  風呂に入ったとき、ガリガリに痩せた自分を見て、鍵を使うことを決めた。  死ぬならあそこを見てからにしよう。  漠然とそんなことを考えて。  部屋から出て、忍の部屋の前に立つ。  ノックする。  習慣で。  鍵を入れて、そっと回した。  ガチャン。 ーよぉ、拓ー  そう言って出てきてくれる気がした。  幻想だ。  靴を脱いで部屋に上がる。  あの日から止まった部屋。  ブーンと鳴る冷蔵庫。  開いたままのカーテン。  乱れたままの布団。  干してある洗濯物。  カチカチ。  壁に掛かった時計が見下ろしてくる。  カチカチ。  部屋の中央で動けなかった。  だって、そこには忍がいたから。  どこを見ても忍を感じたから。  寝転がっていたベッド。  髪を乾かすときもたれていた窓。  旅行で買った土産が並ぶ棚。  カチカチ。  何を触れば良い。  忍がいない部屋で。  カチカチ。  秒計?  鳴り続けるのに、さっきから全く針が進んでない時計を見上げる。  オレは近づいて、それを壁から外した。  盤面の埃を手で払って、裏返す。  そこには小さな封筒が張り付けてあった。  ペリリと剥がす。  時計は置いて、ベッドに腰かける。  心臓が早打ちをしていた。

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