98 / 115

時針が止まる時17

 封筒の口を開く。  左手で中を膨らませるよう力を入れて、指をそこに入れる。  カサリ。  紙だ。  引き出してみる。  四つ折りにされた紙片。  生唾を飲み込む。  数秒間迷ってから、それを広げた。 「この変態め。やっぱり俺が見てない間に見つけやがったな」  噴き出してしまった。 「こんな書き出しがあるかよ……忍」  わかってたんだ。  じゃあ、いつか読むオレに宛てた手紙?  ドクドクと耳に血流を感じる。 「これをてめぇが見てるんなら俺はまだ言えてないんだろうな。情けない。結局こんな手紙なんてダサい手でしか伝えらんねえんだ。拓。今なにしてる? 俺を怒らせて自宅待機中か。大学卒業してたらやだな。どこまで俺は臆病だって話だ」 「今なにしてる、じゃねえよ……」  涙が頬を伝う。  日差しがカーテンの隙間から零れてくる。 「俺がアメリカ行ったの覚えてるか? なんで留学なんかっててめぇは駄々こねてたよな。そんで就職はアメリカ関係じゃないんだから不思議に思っただろ。いや、思わないか。てめぇは」  そうだ。  確かにそうだ。  今さらだ。 「あっちで知り合った奴が、その……同性愛の専門家っつうかなんつうか。書いてて意味わかんねえけど、とにかくそこで俺は色々法律とか学んだんだよ、マジで」 「は? なにしてんだよ、忍」  それを真面目に学んでる忍を想像して笑いが込み上げた。 「で、俺は! クソ、字でもやなもんだなコレ」  そこから勢いに任せたみたいな字体。 「俺はてめぇと一生一緒にいたいんだ」  瞬きを何度かした。  脳に文字が入ってこなくて。  心臓が止まったかと思った。  紙をクシャクシャにしてしまいそうなくらい手に変に力がこもる。 「し、のぶ?」  嬉しいのに。  涙が止まんないのに。  聞きたくて聞きたくて仕方なかった言葉なのに。  唇が震える。  言葉が見つからない。  カチカチ。  カチ。  瞬きを何回しても世界が濡れてる。  忍。  なんで抱き締めたいのにお前はいないんだ

ともだちにシェアしよう!