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超絶マッハでヤバい状況です19

 ガラン。  木材が落ちる。  時間はない。 「捕らえろ」  小声でマイクに伝えた瞬間、全員が動いた。  男たちから女性を引き離し、外に連れ出す。  他の者は秋倉を始め、全員を縛り上げていく。  銃も至近距離で、この焦燥感の中では役に立たない。  千夏の元には一夜と三嗣が駆けつけて、紅乃木と紫織を運んだ。  すぐに栗鷹夫妻が手当てを始める。  この二人も呼んでおいたのだ。  柱が倒れる。  忙しない裏口から青年が顔を出す。 「類沢さん」 「瑞希も出てて」 「怪我しないでください」 「大丈夫だから」  既に壁は黒く染まっていた。  類沢は素早く個室を見回り、最後に出た。  入り口が火の中に沈む。  裏口も。  外に出ると、消防車の音が響いた。  五分もしないうちに来るだろう。  野次馬も集まりつつある。  類沢は頬についた煤を拭った。 「さて、秋倉さん。話の続きをしましょうか」  腕を縛られ、壁に押さえつけられた秋倉が睨みつける。  巨体とはいえ、四人がかりには適わないようだ。 「いっておくがな、この店を一つ潰した程度で終わりと思うな。まだまだ支所が」 「支所とは、この三店舗のことですか」  類沢がチラシを三枚取り出し、彼の足元に投げ捨てる。  コンクリートに鮮やかな紙面が映えた。  秋倉が目を見張る。 「残念ながら、電話も通じなくなっていることでしょう。種明かしをしますとね、うちだけじゃないんですよ。貴方に恨みを持っていたのは」 「……どういう意味だ」  類沢がそばの路地を顎で示す。  暗がりから六人の男が現れた。 「おやおやおや……無様な男がいますことですね。私、スフィンクスのオーナーの松園我円(がえん)と申します」  オールバックの白髪に銀のスーツ。  歌舞伎町NO.2の店と謂われるスフィンクス。 「同じく、松園伴(ばん)です。可愛い客を十七人傷つけた身の程知らずはそこの豚ですかね?」  父と同じく白髪の青年。  二十歳にしてトップ。  小柄ながらも、彫りの深い顔立ちと臙脂のスーツが存在感を放つ。 「シャドウズの空牙(くうが)だ、秋倉のおっさん?」  パイプを片手に笑うラフな格好の三十歳。 「口を慎め、空牙。同じくチーフの吟(ぎん)という」  歌舞伎町一の長寿。  長と呼ばれる万年黒背広の老紳士。  最後の二人が進み出る。

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