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一体なんの冗談だ21

 たった一人の麻那という存在が、こんなにも類沢の中で大きいのは、彼だけじゃなくて街を揺り動かすことになるんじゃないかって。  会いたい。  その願いは単純で理屈的。  でも、叶えられてはいけない気がする。  俺はそっと目を閉じた。  幼い類沢を抱きしめる女性が脳裏にはっきり現れる。  明るい陽射しの仲、秘密の花壇で。  太陽の光を浴びて微笑んで語り合う。  ふと、彼が離れた時。  俺の方を見た彼女は、こう言った気がした。  その場所は、貴方にふさわしいのかしら。  急いで眼を開ける。 「瑞希、大丈夫?」  俺は汗をかいて横たわっていた。  カーテンの隙間から陽光が差し込み、いつの間にか起き上った類沢が心配そうに髪を掻き分けてくれる。 「俺……寝てました?」  夢という感覚とは違った。  もっと、こう、現実味があった。 「二時間くらいね。悪夢でも見てるんじゃないかって苦しい顔してたよ」  彼女の声が、今も耳にこびりついている。 「あ……うなされてました? 迷惑かけてすみません」  サイドテーブルに置いてあった冷水の入ったグラスを渡される。  ひんやりとした感触に意識が鮮明になってくる。  それから、彼女の姿が薄れる。  ゆっくりと水を飲み下し、深呼吸をした。 「寝る前にあんな話したからかな」 「ち、違いますっ! 俺が勝手に考えすぎたから」  そうだ。  なんでだってくらいに。  ぐるぐる。  俺がここにいる理由を考えてた時以上に。  混乱と、眩暈。  パンッ。  目の前で合わさった掌に瞬きをする。 「考えるなって言ったよね」  手を叩いたらしい。  類沢は真剣な眼をしていた。 「はい……すみません」  それでも曇った顔のままの俺を見下ろす。  ため息一つ。 「店が開くまでまだあるから、ドライブでもしよう」 「えっ」  尋ね返す前に、もうリビングに背中は消えて行った。 「気……遣わせてどうする。俺」  口に手を当てて、ボフンとベッドにうずくまる。  でも、起きなきゃ。  またうだうだ考えてしまう。  俺は五時を示す時計を眺めて立ち上がった。

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