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どんな手でも使いますよ23

「うるさいっ」  指を引こうとした聖の隙を突いて、麻耶が肘を思いきり振り上げた。  わき腹に肘鉄を食らった聖がよろめいた。  急いで類沢の脇に逃げた麻耶が、彼の腕を引いてしゃがむ。  その頭上を銃弾が掠めて行った。 「はあっ……はあっ」 「お前はいつも油断しすぎだよ」  麻耶の背を押して、ソファの陰に避難させる。  アイコンタクトで礼だけ伝えて。  麻耶は心配げに様子を窺った。  それを確認して聖に近づく。 「来るなっ」 「雅樹」 「その名前で呼ばないでくださいよっ」  こういうところは昔とそっくりだよね。  麻那の方に懐から違う銃を取り出し、それを向けて顔を歪ませる。 「どの道この女は殺す」  声が本気だった。  類沢は足を踏み出し、その照準の前に重なった。 「雅っ」 「この人を巻き込まないでほしい」  静寂が漂う。  三人がそれぞれ互いを見つめあう。  聖は麻那を。  麻那は類沢を。  類沢は聖を。 「……ぜ、絶対的に俺が有利なんだ」  さっきまで確かだった言葉が揺れる。 「大学も辞めたし、失うものもない」  視線は止まったまま。  類沢を見まいと。 「今の生き甲斐はあんたなんだよっ雅さん!」 「だったら他人の計画になんか乗せられずに自分で納得する方法を選びなよ」  秋倉と同じじゃないか。  そんなの、お前らしくもない。  他人の武器を使って。  他人の場所で。  命を張るには余りに無様で不愉快だ。  類沢の口角が下がる。 「きっと満足しないよ」 「知ってますよ、そんなことは!」 「だったら今すぐその目障りなモン下ろせよっ!」  空気がびりびりと振動する。  聞いたことのない類沢の怒声に二人が動けなくなった。  鼓膜に余韻が残っている。  そんな顔、するんだ……  そんな声、初めて聞いたわ。  息ひとつ乱さず、類沢が聖の視線を捕らえた。  その瞬間、聖の意識の外で手から銃が滑り落ちた。  スローに。  回転しながら。  地面とぶつかった音が何重にも波紋となって響き渡る。  拾おうとしても脚が曲がらない。  傍らで類沢が麻那を立たせる。  肩に触れた手の冷たさにハッとする彼女を見もせず、聖から視線を外さない。  たった十数秒。  聖には永遠に感じた。

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