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夢から覚めました17

「なんでだ?」  おれを見たあんたは、そう、一言だけ残して倒れたな。  ふっと、意識を失って。  地面に落ちる前に支えたときの重みも、よお覚えてるわ。  人を寄せ付けないあんたが、腕の中に納まっとって。  乱れた髪が頬にかかって。  意味もなくわろてしまって。  それからは早かったな。  篠田たちが帰って、数時間してからか?  あんたが目覚めたんは。  ベッドが軋む音に駆け付けたら、起き上がってアホみたいな顔で自分の手を見つめてたんな。  右手。  巧を撃とうとした手。 「起きたんやな」  怒られる。  そう、なんとなく思っとった。  タブーを、最大の禁忌を犯してしまったおれを殺したいんじゃないかって。  でも、あんたは弱弱しい声で言った。  何かから解放されたように少しだけ澄んだ眼を向けて。 「ここ、どこだ?」 「どこて……覚えてないん?」  近づこうとしたら警戒されたな。  「お前……汐野、だよな?」 「何言うてんの」  鵜亥が頭を押さえる。  動揺したように眼を泳がせて。  何かを必死に思い出そうとするように。 「中富の臓器取引はどうなった?」  おれの脚が止まった。  口を開けたまま、鵜亥を見つめて。 「何……言うてんの」  中富の奴らと取引したんは五年前。  今はもう、潰れている人脈。  だが、ふざけてる様子もない。  おれは奥歯を噛み締めた。  五年前。  そう。  あの臓器取引の後に、巧を拾った。  ああ、そうか。  そういうことか。  ククク、と笑いが唇から零れる。  鵜亥が不審な顔でおれを見つめた。  五年前とはおれも変わったよなあ? 「は、ははは……あははは」 「汐野?」  膝から崩れ落ちる。  笑いが止まらなかった。  あんたの記憶は巧を消したんやな。  それにかかわる全ても巻き込んで。  おれはすぐに堺に帰る準備を進めた。  柾谷サイドからの牽制も激しかったしな。  元から仕切っている秋倉の組織を荒らすつもりもなくなっていた。  ただ、鵜亥はんの記憶のある、堺のあの地区に戻るべきだと悟っていた。 「汐野」 「あ、待ちくたびれたで。鵜亥はん」  愛と別れた後、東京駅八重洲口で上司と落ち合う。 「変わったな。ここも」 「オリンピックに向けてんとちゃう? 興味ないけど」 「まあ、そうだな」  改札を抜け、ホームに向かう。  

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