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あの店に彼がいるそうです12

「……ん」  河南が両手で俺の頬を包んだ。  柔らかい感触を押し付け合う。  涙の味のままに。  忘れるわけない。  こんなの。  コツン、と鼻をぶつけて河南は身を起こした。 「大好き」 「……ああ」  クラクションに急かされ、発進する。  河南は追いかけては来なかった。  ただ、駐車場のアーケードの下からずっとこちらを向いていた。  バイバイ。  待ってる。  大好き。  沢山の言葉を俺に刻んで。  ハンドルに突っ伏しそうになるのを堪えてアウトレットから出る。  まずはこの車を返して、それからアーバンで。  新宿へ。  馴染みのあの街へ。 「……河南。すげえなあ」  口を押さえて熱を思い出す。  あんな一瞬で溢れるほど流れ込んできた思い。  大好き。  あんな一言に詰め込んだ言葉。  俺にはできない。  それに頷くことすら。  情けない。  河南。  ありがとう。  ごめん。  好きだよ。 「いってきます」  ビーフンの味がまだ、咥内に残っていた。

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