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あの店に彼がいるそうです16

「お伽……噺?」  蓮花は俺の仮面を指で感触を確かめながら話し出す。 「それは泣き虫なフレンディだった  毎日毎日街を駆けて叫んでいるんだ  今朝パン屋の女主人が死んだ  病のなかでも旦那の帰りを待って  働きづめていたんだと  人々はこぞって弔いに来た  皆誰に聞いたって?  フレンディが教えてくれたのさ  それはそれは泣き虫フレンディ  来る日も来る日も  いなくなった者たちのために泣いた  だけど誰も知らなかったんだ  フレンディは毒のスープを作ってしまった  彼女が飲んだその一口が  フレンディの涙を止まらせない  それは泣き虫フレンディ  あいつはいつになったら笑うんだ  人々は駆けつける  亡くなった者たちを弔いに  だけど誰も知らなかったんだ  彼女が亡くなったその朝だけは  誰も駆けつけなかったそうだ  それは泣き虫フレンディの物語  最初の一口  本当は気づいていたんだろう?」  囁くような最後の問いに、ゾクゾクと鳥肌が立った。  奇妙な気分に包まれる。 「初めて聞きました」 「ええ。胡桃と言う娘から聞いたの。その子は情報屋でね。多分フレンディと自分を重ねているんじゃないかしら」 「この噺の本質はなんなんですか」 「フレンディの彼女は毒のスープを飲んで死んだ。フレンディはそれをずっと忘れないで泣き続けてる」 「しかし彼女は気づいていたんだろう、というのは」 「これってね、無理心中のお話だと思うの」 「心中?」 「フレンディは彼女とスープを飲み合って死ぬつもりだった。でも彼女はそれを知っていて最初に自ら飲み干したのよ。自分の死を見せることで、彼に死を味わってほしくなくて」  作ったのは蓮花ではないか。  そう思えてくる。 「なんで、今その話をしたんですか?」  そのときの微笑みは、忘れられない。  こんなにも美しい女性に、ここまで淋しい表情が出来るのかと寒気がした。  持ち上がった唇の端は影を濃くして。  伏せた睫毛が無理やりビューラーによって反り返り、照明を含んで煌めく。 「深い愛は狂気を引き寄せるわ。とても綺麗な狂気を」 「……そんなこと言わないでください」 「西雅樹も秋倉も鵜亥も破滅した。なら、雅はどうなるかしら? 貴方は?」  期待を。  一欠片の期待を感じた。

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