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あの店に彼がいるそうです21
「他の子とは違ってた」
店に入って、河南と共に指名してから現れた豹柄スーツ。
トップホストという肩書きの凄さを思い知らされた初対面。
「歩けないときから知っていると、今がまるで幻想のよう」
気に入った、短いその一言とキスで俺の生活を一変させた。
スーツを買いに行くときの無知な俺に呆れたサングラス越しの笑顔。
二人で住むと決まった日は、怒鳴ったっけ。
「貴方の上司でもある、篠田さんのおかげね」
郷に入ればホストに従え、と翠の眼で俺を脅した篠田チーフを傍目に厳しくしてくれた。
それなのに、晃に暴行を受けたときは面白いくらい慌てて栗鷹診療所に連れていってくれた。
蓮花さんと話したトイレに現れたときは、何故か凄く怖かった。
その後の雛谷との会話の方が怖かったか。
「ホストになる前の話も訊きましたか」
「……間接的に知ったわ。それも貴方は知っているのね」
秋倉真の名義屋騒動に駆けつけた八人集。
仕切ってるのが篠田チーフってところが本当に格好良かった。
殺気をぶつけていた横顔は焼き付いて忘れられない。
それからすぐに聖に捕まって。
ハッとする。
蓮花さんが前に云っていた言葉。
聖がまた戻ってきたら。
またあとで、そう言って……
「麻那さんは、聖という男を知ってますか」
仮面の奥の眼が仄かに光る。
「ええ。彼もまた、雅にとって特別な存在。本当は今日ここでちゃんと会いたかったのだけど……探しきれなかった」
「会ったんですか」
コトリ、とグラスを置いて彼女は唇を舐める。
どの言葉から始めるか思案するように。
少しずつこの空気に慣れては来ていたものの、話題が話題なだけに背筋が緊張で伸びる。
「……雅に会わせてくれたのは彼よ」
足元が掬われて、落下する。
臓器が浮き上がり、鳥肌立つ。
まさか。
カタカタと記憶のピースが填められていく。
雅樹が。
ー類沢雅は、お前のせいでホストという職を失う。その気分はどうだー
あの言葉通りに。
薬ではなく、弦宮麻那という人間を利用して。
奥歯を噛み締める。
もし、もしそうなら……
涙腺が熱くなる。
なんで、あの日だったんだよ。
俺が死ぬほど類沢さんの助けを求めたあの日だったんだよ。
「とても良い別れ方じゃなかったから、ちゃんともう一度会いたいんだけどね」
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