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あの店に彼がいるそうです22

「あいつなら……麻那さんに黙って類沢さんを渡すわけがない」  頭の中でピースが回転しながら填まる方向を模索する。 「え?」 「何があったんですか? あの夜。俺が知らないところで。貴女と類沢さんと雅樹はっ、一体どこで何を!?」  圧し殺した叫びが空気を震わせ、一夜が客と共に此方を窺う。  右手で左手首を押さえながら、荒くなった呼吸をなんとか落ち着かせる。 「瑞希くん」 「……すみません。取り乱して。俺にとっては大事なことなんです」  消えない傷と感触。  汐野の笑い声と、鵜亥の侮辱。  屈辱。  脳を焼いた電流。  一言一句思い出せる。  あいつらが話したこと。  朦朧としながらも、助けを信じた時間。  目を瞑り、なんとか心臓を静かにさせる。  麻那は伸ばしかけた手を下ろした。 「あの夜、私は金原圭吾から連絡を貰って定められた住所に案内されたの」  金原圭吾。  ホストになりたがっていると訊いた、あのイタリアンバーの青年。 「そこに雅樹という青年が待ってたわ。雅とは前に一緒に働いていたみたいで、凄く親しげに評判を教えてくれた」  類沢と雅樹の過去は詳しくは知らない。  訊いたところで、意味もなさないから。  俺を拉致した理由が類沢を手に入れるためなんて、その裏の感情なんて理解したくもない。 「雅が来てから、彼は出迎えに行った。そこからおかしなことが沢山起こったわ」 「似てる……」 「似てる?」 「俺が前に雅樹に捕まった時に状況が似てるんです。すみません。ここから先は訊きません。大変な思いをしたでしょう」  玲もいたんだろうか。  一体どこまで手にかけるんだ。  俺のみならず。  なんらかの暴力は生じたはず。 「……よく逃げられましたね」 「随分事情をわかってるのね。ええ。あんなに懸命に走ったのは十何年かぶりだったわ」  空になった彼女のグラスに注ぎながら、お互い沈黙の中で目線を交差する。  すぐに逸れたが。  ボトルを置いて、眉間を撫でる。  そうか。  そうか、って。  納得させようと。 ー貴方はどうするのかしらー  蓮花の声が揺らめく。  どうする?  彼女に何を言えば良い。  何を訴えたら良い。 「……類沢さんは、ホストです」  つい口から出た言葉がじわりと脳に沁みる。

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