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あの店に彼がいるそうです23

 返事を待たずに俺はつらつらと話した。 「この歌舞伎町で篠田チーフが大きくしたシエラのナンバーワンホストです。ライバル店のキャッスルの雛谷さんとは犬猿の仲でも、忍や、俺の友人なんですけど、忍や拓の件でも向こうのナンバーワンの如月さんも合わせてお互い意識を高めあって……八人集てのがあるんですけど、他にもシャドウズの空牙さんと吟さん、歌舞伎町で還暦過ぎたホストもいるんです。あとはスフィンクスの我円さんに伴。伴ってのが俺と同年代でも凄く客を抱えてるホストで、あそこの一夜とかアカも相当なんですけど。そんな中で……類沢さんは、トップで……俺の借金返済に協力してくれて、スーツも買い揃えてくれて、これ、俺なんかが選べないですよ」  自分の腿を手でなぞる。  毎日着て、ホストになって。  化粧もして。 「類沢さんは、誰よりも輝いていて、素敵で……シエラのトップはあの人しかあり得ないのに……いきなりいなくなっちゃって」  喉に針が刺されたように痛む。 「いなくなって……気づいたんです」  麻那は黙って仮面越しに見つめていた。  その中で何を考えてるかなんて見当もつかない。 「俺のなかで、類沢さんがいなきゃダメだって。たとえ俺には相応しくなくても、類沢さんが望んでなくても知ったこっちゃないんです」  笑いが漏れる。  そうだ。  知ったことじゃない。  俺が望むのは至極単純なこと。  しっかりと目線を合わせる。  深く息を吐いて、吸った。 「類沢さんに会わせてください」  声は震えていなかった。  店内の麗しいBGMに負けず、空気を貫いた。  彼女は静かに頷いて、小さな声で云った。 「あと、一日だけ待ってくれる?」  ささやかな我儘。  そう聞こえた。 「……一ヶ月待ったんです。待ちますよ」  彼女は俺のグラスを持ち上げて手渡した。  微笑んで乾杯を交わす。  明日になれば、類沢さんに会える。  高揚のせいか奇妙な味のする酒を飲み干し、俺は彼女を出口にエスコートした。  薔薇窓の下、手を離す。  夜空に歩みだした麻那は、髪を押さえて力なく俺を見上げた。 「貴方は綺麗な方だわ」 「えっ」  寂しげに言われた言葉にどきりとする。 「雅と出逢ってくれてよかった」  そう残して、美しい人は去っていった。  閉まる扉に香りを残して。  くらりと立ち眩んで、俺は扉にもたれた。 「瑞希!」

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