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あの店に彼がいるそうです24

 嫌な予感はしてたのよ。  だから、二階で待ってたの。  蓮花は騒ぎを聞いて、駆け降りた。  ホールの中央のソファに瑞希が横になって荒く息を繰り返している。  一夜が額に濡れたハンカチを押さえる。 「突然倒れたんだ」  晃がぶっきらぼうに呟く。 「あの客は?」  誰を指しているのか察した一夜が立ち上がりながら答える。 「瑞希の客ならもう……」 「どきなさい!」  蓮花の怒鳴り声に一夜と晃がびくりと道を譲った。  マーメイドラインドレスで風を切って外に飛び出す。  そこにいた篠田が驚いて従姉妹を見上げた。 「どうした」 「弦宮麻那はどこ!?」  足元が危うくなりながらも、階段を降りて、辺りを見渡す。 「雅とこの辺を散歩するってそっちに……」  指差した手を蓮花が両手で強く握る。  それから涙を堪えて篠田に寄りかかった。 「お、おい」 「……って」 「あ?」 「追いなさいよ!」  その剣幕に、八人集のトップが動じた。  更に背中をぐいと押しやる。 「蓮花?」 「泣き虫フレンディは狂気のあまりに大事な人に毒を盛った! 胡桃が教えてくれたのよ。お伽噺はあまりに惨いって……十七年の孤独が女をどれほど変えるかわからないでしょう? 早く追いなさい!」 「なんの話を……」 「瑞希を助けるのよ!」  男を鞭で嬲るのが趣向の人間が吐く台詞ではないと思いつつも、篠田は走り出した。  白いスーツを闇夜に舞わせて。  息を荒くして地面を蹴った。  あの従姉妹が必死に自分に頼みごとをしたのが信じられない。  篠田蓮花がだぞ?  瑞希がどうしたとか言ってたが。  弦宮麻那が何かしたのか?  二人で話した内容は知り得ない。  だが、予想はつく。  瑞希は雅と会うことを頼んだはずだ。  それしかないだろう。  ならば、そこから何が起きる?  酸素が足りない。  体力不足だ。  雅の背中を探す。  そう遠くには行けないはずだ。  焦るな。  蓮花にざわつかされた心を鎮めろ。 「雅なら……」  夜景が好きなあいつのことだ。  青山を一望出来る南側の丘。  そっちに行った。  顎を手の甲で拭って、駆け出す。  仮面が揺れて頬に当たる。  当たり前だ。  うちのクラブで走るバカは想定してない。  開けた視界に星空。  少女と少年が星を数えて立ち尽くす。  その背中に呼び掛けた。

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