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あの店に彼がいるそうです33
わかってる。
俺は余りに身勝手だ。
勝手に危険に飛び込んで、大勢に迷惑かけといて類沢さんを信じて勝手に待って、河南とも区切りをつけて、出会ったときみたいに類沢さんが現れてくれたんじゃないかって。
期待してたんだ。
あんたは、貴方はシエラ一の男だから。
「なんて、違うんですか」
「み……ずき」
「それが篠田チーフに夢を託されてた人の顔ですか。それが何十人て太客抱えてたホストの顔ですか。それがいきなり家に住まわせて何も言わずに去って置いていった俺に対しての顔ですか!? だったら会いたくなかった! 会いたくなかった……弦宮麻那にもあんたにも! 知らないところで知らないことを進めててほしかった……わざわざ顔を見せに来たなら相応の顔を見せてくださいよ!」
はあはあ、と荒く呼吸を繰り返す。
興奮でいつの間にか立ち上がっていた。
類沢を見下ろす形で。
肩を怒らせて。
「アカが、トップに立って、貴方の記録に届きつつあります。愛さんは、堺と関係を絶ってシエラを存続させていこうと頑張ってます。キャッスルの恵介さんも、千夏も、みんな……この店に、オペラに呼ばれた一夜と晃さんだって。もう、貴方がいないシステムが出来上がって……今更……今更現れといて、俺に泣くしか出来ないなんて、虚しいじゃないですか。みんな、貴方に、あんたに憧れて頑張ってるのにっ!」
ぐいっと腕を強く引き寄せられ、無表情の類沢にソファに組み敷かれる。
一瞬のことで、気づいたら体が動かず、目の前に類沢の顔があった。
怖いほど整った表情が、力の抜けた笑顔に変わるまで、俺は瞬きすら出来なかった。
「吠えるようになったね、瑞希」
「なっ」
「いや、ごめん。嬉しくて。こんなときなのに、瑞希が宣戦布告してきたあの給料日を思い出しちゃった。僕の隣に来るって言ってたのに、いつの間に追い越したつもり?」
言い返そうとした顎を捕まれ、開いた口に舌を差し込まれた。
冷たい指が首に降りて、動脈を押す。
「ふ、は……ん、んく」
静かな部屋にやけに響く音に体が熱くなってくる。
どくどくと、振動が全身を駆ける。
舌先が絡み合い、喉に滴る液を飲み込む。
思考を鈍らせる熱に抗おうと眉間に力を入れたとき、類沢が身を起こした。
唇を人差し指の関節で拭いながら。
「やっぱり瑞希がいると落ち着く」
「……俺は、乱されますけど」
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