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第8話 【佐々木視点】キスしてしまいたい

「いや、アイツの兄ちゃん経由ですげーの手に入ったって言うからさ、綾瀬ん家で観賞会。十人くらい居たんじゃねぇの?」 そうか……良かった。 綾瀬と二人っきりじゃなかった事にとりあえずはホッとする。 「マジで結構スゴかったぜ? 今度観賞会あったら声かけようか?」 「絶対に行かない」 宮下は屈託なく誘ってくるけど、はっきり言って冗談じゃない。俺は食い気味に断った。宮下はキョトンとした顔で「なんでさ」なんて聞いてくるけど、そんなの決まりきってる。 「宮下だけならまだしも……そんなの、どんな顔して見てればいいんだよ」 「あー……確かに。いつもは皆画面に釘付けで他人のことなんて見ちゃいねぇけど、佐々木が来たらみんな興味本位で佐々木の方見ちゃうかもなぁ」 「やっぱり絶対に行かない」 なんの罰ゲームだそれは。AV見てるのを皆から注視されるなんて恥ずかしすぎるだろう。 「お前の場合、猥談なんかには絶対参加しない爽やかなイケメンっていうイメージがあるから、余計に気になるんだよなぁ」 「なんだよそれ……」 宮下はなんだかもっともらしい事をさらに言ってくるけど全然納得できない。悪趣味だ、って言ってみたら、宮下は当然って顔でこう言った。 「つーか、オレでも佐々木を見るわ」 「えっ」 そこではたと気づいた。そうか、宮下も一緒って事だよね。 俺だって宮下がどんな顔をしてエッチなビデオを見てるのかは気になる。もの凄く気になる。 必死でゲームしてる時ですら、身を乗り出して画面を必死で見つめる宮下の顔は股間にくるものがあるんだ。興奮してるせいかちょっと頬が赤くなって、唇も薄く開いてる。時折漏れる「あっ」とか「ヤバっ」とかいう小さな声も堪らない。 キスしたい、押し倒したい、なんて感情でいっぱいになってしまうあの顔。 あれより、もっと。 ちょっとだけ想像したら、下半身がなんとなく落ち着かなくなってきたから即刻想像を封印した。 隣に今、宮下がいるというのに、今だけはまずい。 チラッと宮下を見たら、俺が良からぬ想像をしている事も知らず、ニコッと笑ってくれる。可愛い。 下半身が熱を持ってしまいそうで、俺は慌てて目を逸らす。そして股間に向かって必死に念じた。頼むから今は大人しくしててくれ。 「どした?」 せっかく目を逸らしたのに、覗き込むのやめてくれ。コーラを飲んだせいかぷっくりした唇が濡れてテラっと光ってるのから目が離せなくなって、俺は思わず聞いていた。 「いや、その……ちなみに宮下は、した事あるの?」 「? 何を?」 「キスだよ。宮下が聞いてきたんじゃないか」 俺よりもずっと性に奔放そうな宮下。この唇はもしかしたらもう、他の誰かを知っているのかも知れないと思うと聞かずにはいられなかった。 「ああ! あるわけないっしょ」 あっけらかんと宮下が笑う。望み通りの答えを貰って安心したのも束の間。 「ディープキスどころかライトもバードも何もない。なんならオナニーくらいしか経験のない、他は真っさらさらの新品よ?」 宮下はニカっと笑って、てらいもなくそんな事まで暴露した。 オナニーって。 一瞬で、宮下が自身のモノを蕩けた顔で扱いている様が脳みそを占領して、かあっと頬に熱が集まる。宮下の口から出た『オナニー』という言葉の破壊力が凄まじい。 そうか、オナニーはしてるんだ。 その手で、自分のモノをしごいて気持ちよくなってるのか。 俺の隣に座る宮下を盗み見る。気を抜くと下半身の方にまで視線がいきそうだが、そこは根性で堪えた。代わりにその愛嬌のある顔見ていたら、こぶりだけどちょっとプクッとした可愛い唇から目が離せなくなってしまった。 せめてあの唇にキスしたい。 そんな欲望を胸の中で必死で抑え込む。さっき宮下が言ってたライトでもバードでもディープでもなんでもいい。まだ誰ともキスしてないのなら、なおさらあの唇を奪ってしまいたい。 ていうかなんで宮下はした事もないのにそんなにキスの種類に詳しいんだ、と追及してみたら。 「そりゃもう勉強してますから。経験がないからこそ興味あるってもんだろ」 なんとそう返された。宮下は自信満々な顔で「知識はある」と豪語してるけど、でも経験はないんだよな。 「やっぱり経験したい?」 内心ドキドキしながら聞いてみたら、宮下は当然って顔でこう言った。 「聞くまでもなくない? したいに決まってるじゃん」 まるで催眠術にかかったような気分だった。 その言葉を口にした宮下の唇が誘っているように見えて、心のままにキスをする。プクッとした唇はやっぱり弾力があって、ちょっと濡れていて、無防備に少し開いていた。 俺、宮下とキスしてる。 感動なのか、興奮なのか、分からない熱が体を震わせた。 唇をはむはむしたり舐めてみたりもしたかったけれど、押し当ててチュッとリップ音をさせるだけで我慢する。唇を離してみたら呆然と俺を見つめている宮下がいて、突き飛ばされたわけでも嫌悪感を見せられたわけでもない事に歓喜した。

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