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仁哉編20
夏が終わり秋になったその日。
桂は無事誕生日を迎えた。
血を欲することも無くなった桂は泣いて喜んでいたが、すぐに高校受験の為の勉強が忙しくなって、俺は桂と狩人の話をする事も無くなった。
俺達は友人になる事なく、ただのクラスメイトとして過ごし、年が明けて受験シーズンが近づいてきても、その関係は変わらなかった。
2月の、ある寒い日。
世間で言うところのバレンタイン・デーに。
桂は俺にカステラを一本くれた。
「お土産だよ」
と彼は笑ったが、世間がチョコ一色に染まる中、カステラを箱で貰った俺は何だか複雑な気持ちだった。
これを2月14日にもらったと言うことは、ホワイトデーに返すべきなのか?と少し悩むくらいには。
けれども、結局その日に桂と会うことは無かった。
3月に入る直前の2月27日。
桂は、その町から姿を消した。
桂迅夜が狩人になった形跡はなかった。
彼の家族も無事だったし、彼は何も言い残さなかった。ただ、静かに姿を消しただけだ。
桂は行方不明者として登録されただろう。警察が来て捜査はしていたようだったけれど、県外の高校に進学した俺には、詳細は分からなかった。
俺は、桂は狩人に食い殺されたのかもしれないと思っていた。
そう思う者も多かっただろう。それくらいひっそりと姿を消したのだ。
それでも、15歳を迎えて何ヶ月かを生きた桂に、俺は内心安堵していた。俺の血は、鬼の因子に勝ったのだ。そう思っていた。
だが半年ほど経って、叔父が俺に伝えた言葉は衝撃的なものだった。
「桂迅夜の最後の血液検査の結果だ」
そう言って渡された紙を見ても、俺には何一つ分からない。だがそんなものを渡してきた叔父に嫌な予感がして、俺は紙に書かれた数字を何度も追った。
「白血球の数値が高い。だが異常と言えるほどではない」
「白血病になったって事?」
「他にも幾つかの数値が下がっている。これらの数値が下がるのは、鬼の特徴だ」
「…狩人の…?」
「目に見えて下がっているわけではない。他の症例も確認したが、病気によっては有り得る。あくまで可能性の話だが…」
叔父も、額に皴を寄せて難しい顔をしていた。
「桂迅夜の中の鬼の因子が、活性化した。その可能性も、否定は出来ない」
「何で…」
「お前の母親が言っていた『癒しの血』は、癒やしたんじゃないのか。桂迅夜は暴走しなかった。不可解な行動も取らなかった。直前まで人間として暮らしていたんだろう。本人も自覚していたか分からない。自分が狩人になったと気付いて、迷惑をかけないよう出て行った。…彼は、もし自分が狩人になったらそうしたいと言っていたからな」
「…全然分からなかった。違うよな?あいつが狩人になるなんて」
「可能性の話だ」
俺の血が鬼の血を抑制する。
それを叔父は公表しなかった。実際はどうであったとしても、話をした時点で俺は狙われるだろう。俺の血さえあればいいと殺しに来る奴もいるかもしれない。狩人にも邪魔な存在として狙われるかもしれない。
だから、俺もその話を誰にもしなかった。
そして、桂が狩人になったかもしれないと聞いて、自分の無力さを知った。
結局、俺の血には力など無いのかもしれない。
だったら、守人としての素質がある俺は、父親と同じ道を進んだ方がいいのだろう。
そうして、俺は守人になったのだ。
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