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08 貴方の膝の上でイカせて……
市長指示事項:
・我が市は、高齢化社会に向けた施策として新たな条例を制定する。
1)市内の公共交通機関の全座席を優先席とする。学生(18才以下)は、原則座席につく事を禁止する。
2)特例として、学生は、座席につけない代わりに、人の膝の上に座っても良い事とする。
以上。
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この物語は、市内の公立高校に通う、とある男子生徒の日常を描いたものである。
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駅へ向かう市営バスが止まった。
アナウンスが流れる。
「このバスは、市民会館経由、駅前行きです……」
バスの中で立っていた森野 遙 の後ろから、小学生が遙を押しやって割り込んできた。
ドン!
「いたっ……」
遙に勢いよくぶつかった。
遙の眉間にシワがよる。
ずれたヘッドホンを直しながら、ムっとしてその小学生を睨んだ。
小学生は、気にも留めず、遙の前に座っていたサラリーマンに声を掛けた。
「ねぇ、おじさん。座っていい?」
「いいよ」
「やった!」
ランドセルを下ろし、その男性の膝にちょこんと座った。
「あー、楽ちん、楽ちん!」
満面の笑みを浮かべる小学生。
(ふん、子供は気楽でいいよな……)
視線の先には、小学生に膝を貸したサラリーマンの顔。
キリっとした凛々しい表情で前を見据える。
美形のイケメンである。
(……俺もそうやって声が掛けられればな……ミナミさん)
遙は、深いため息をついた。
****
市立第一高等学校。
朝のホームルーム前の教室。
ヘッドホンをしながら頬杖をつく遙に、友人の綾瀬 浩司 が肩を組んできた。
遙は、あからさまに迷惑そうな顔をした。
「おはよう遙! 何を聞いているんだよ!」
「別に……」
「どうせ、女の喘ぎ声だろ?」
「はぁ?」
「ははは、冗談だって。そう睨むなって……」
浩司は、遙の背中をパンパンと叩いた。
気難しい遙は、扱いが面倒で友達が少ない。
そんな中、浩司だけは、遙に対してズカズカと遠慮なく絡んでくる。
遙の唯一の友達といってもいい。
「聞いているのって、どうせ英会話ってとこだろ? お前、英語の成績だけはいいしな。ところでさ……」
遙が可愛い系男子であるのに対して、浩司は、正統派爽やか男子といったところ。
二人は系統こそ違うが、共に学年のイケメン上位にランクインする。
遙は、話し掛けてくる浩司の言葉を無視して、ヘッドホンから流れてくる音に耳を集中した。
『今日も可愛いよ……僕だけの君』
イケボ声優、ミナミ君の囁き。
女性向けの癒し音源であるが、遙の大のお気に入りである。
低くて透き通った声質。そして少しSっぽい煽りと優しさのギャップが堪らない。
遙は、目を閉じて浸る。
『こっちを向いて、ほら恥ずかしがらないで……』
(ああ、気持ちが落ち着く……)
その時、授業が始まる鐘が鳴った。
遙は、目を開けた。
目の前には、得意げに話す浩司の顔があった。
「……という訳さ。さぁ、鐘がなったから教室に戻るよ。じゃあ、遙。また後でな」
「……ん? ああ」
浩司は、教室を出ていく。
遙は、その背中をぼんやりと見送り、大きなあくびをした。
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英語教師は、教科書を手に持ち、歩きながら言った。
「……で、あるからして、ここは『彼は、憂鬱な気持ちとなった』と訳す……」
遙は、ぽぉっとした気の抜けた顔で、窓の外を見ていた。
いい天気である。
(はぁ、ミナミさんは何をしてる人だろう……)
遙は、バスで乗り合わせる例の美形サラリーマンの事を、そう呼ぶようにしていた。
もちろん、声優のミナミ君の声に似ているから、そう名付けた。
(ミナミさんとまた話したいな……)
ミナミさんと出会ったのは、新学期早々。
場所は、最寄りのバス停。
遙がたまたま早起きをし、乗車の列に並んでいた時の事だった。
突然、雨が降り始めた。
(くっ、天気予報じゃ、雨なんて言ってなかったじゃないか……)
遙は、傘を忘れ見事に雨に降られる結果となった。
そこに後ろから、声を掛けてくる人があった。
「君、入るかい?」
遙は、振り返り、「いいんですか?」と、返事をしようとした。
しかし、遙は、その人の顔を見て呼吸を忘れて固まってしまった。
遙が今まで見たことがない程の「カッコいい男」だったからだ。
「……え、えっと……」
「ほら、濡れるよ」
「はい……あ、ありがとう……ございます」
その人は、少年のような無垢な笑顔で、にこっと笑いかけてきた。
それを見た遙は、なぜか恥ずかしくなって、すぐに目を逸らしてしまった。
心拍数が急上昇。そして、胸が張り裂けそうに痛む。
今まで、男性に対して感じたことのない感情。
それは、正しく恋……。
(ああ……なんてカッコいいんだろう……しかも、耳が幸せになる程いい声……俺、変な気持ちになっちゃう)
それから、朝の通学のバスで何度か見かけるようになった。
遙が下車する第一高校前までのおよそ10分間。
遙にとって、一日で一番幸せな時間となったのだ。
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「……さて、次のところは……森野。訳してみろ」
先生にさされ、遙は、ゆっくりと目を教科書に戻した。
直ぐに、頭を切り替える。
「はい。えっと……『彼の本当の想いは、自分でも気が付いていなかったが……』」
遙は、和訳しながら股間の痛みと戦っていた。
遙のモノは、パンパンに勃起し、それは狭く窮屈なズボンの中で悲鳴を上げている。
(……ミナミさんの事を考えると、いつもこうだ……はぁ、はぁ……)
「よし、森野、よくできた。じゃあ、次は……」
遙は、見事にテントを張った自分の下半身を見つめ、再度、ため息をついた。
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次の日。
遙は、玄関でトントンと床を蹴って靴を履いていた。
母親の怒鳴り声がダイニングから聞こえる。
「遙! 朝ご飯は?」
「いい、いらない。行ってきます……」
「もう、ちゃんと起きないから! だから早く寝なさいって言っているでしょ!」
(ったく、うるさいなぁ……)
遙は、イライラを我慢して家を飛び出した。
走りながら、ヘッドホンを装着。
ミナミ君の囁き声が耳に入る。
『おはよう、今日も可愛いね。一緒に頑張ろうか』
遙は、すぐに気持ちが落ち着くのを感じ、すぅっと深呼吸をした。
「よし!」
****
放課後になった。
遙は、校舎裏に呼び出された。
目の前には3人組の女子生徒。
真ん中の子が顔を赤らめながら言った。
「遙君……あの、その、あたし……」
遙は、その子の言葉を途中で遮った。
「ごめん。先に謝っておく。俺、誰とも付き合う気ないから」
「えっと、その……せめてこの手紙を……」
「じゃあ……」
女子生徒に背中を向け、遙はその場から立ち去った。
****
一部始終を陰で見ていた浩司は、呆れた顔で言った。
「お前さぁ、話ぐらい最後まで聞いてやれよ……冷た過ぎるぞ」
「あれでいいんだよ……どうせ断るんだ。傷は浅い方がいい。それが親切ってものだ」
「……相変わらずだな、お前は……しかし、もったいねぇなぁ、結構可愛かったじゃないか」
「別に……興味ない」
浩司は、やれやれ、と両手を広げた。
「お前ってさ、結局どんな女がタイプなわけ?」
「タイプ? そんなのねぇよ。そもそも女に興味ねぇから……」
「へぇ……そうなんだ……」
「だから、何?」
「べ、別に……おー、怖っ」
浩司は、わざとらしく怯えた顔をした。
が、遙は、フンと、そっぽを向き、これ以上は浩司との会話は無視する事を決め込んだようだった。
浩司は、ため息をついた。
「……ったく、どうしてこんな無愛想な奴がモテるんだが……分かんねえなぁ」
****
翌朝。
いつもの日常が始まる。
遙は、いつものように、バスに乗り込んと車内を確認してミナミさんを探した。
しかし、残念ながら遙はミナミさんの姿を見つける事が出来なかった。
(はぁ……)
深いため息をついた。
ミナミさんとバスを一緒に出来ない日は、占いでいうところの最悪に不運な一日。
バスが走りだすと、遙は、せめてもの癒しと、ヘッドホンを装着してミナミ君の声に浸ろうとした。
が、不運にも、突然、バスは急ブレーキを掛けた。
キキーッ!!
遙は、バランスを崩し、思わず見知らぬ中年おじさんの膝の上に座ってしまった。
「す、すみません」
慌てて立ち上がろうとするが、手首をギュッと掴まれた。
「いいよ。このまま座ってて。おじさん、平気だから」
「いいえ、俺は……」
「座っていなさい。ほら、急に立ったら危ないから」
おじさんの息は酒臭く、フガフガと荒い鼻息は湿ってて生温かい。
それが後ろから遙の耳にかかるのだ。
(キ、キモい……吐き気がする)
生理的に受け付けれない。
遙は、脱出を試みようとして言った。
「俺、もうバス降りるんで……」
「降りる? 嘘ばっかり。君の制服って一高のだよね。まだしばらくあるじゃないか?」
取った獲物は逃さない。
おじさんのそんな執着心が見え隠れする。
「ところで、君。いい匂いするね。シャンプーの匂いかな? 髪ツヤツヤして綺麗だね」
おじさんが耳元で囁く。
遙は、ゾゾゾと背筋に悪寒が走り、気分が悪くなり目眩がしてきた。
「ハァ、ハァ……おじさん、なんか興奮してきちゃった……だって、おじさんのおちんちん、君のお尻に押し潰されて気持ち良くて。ほら、おじさんの固くなったおちんちん、当たってるの分かるよね?」
「や、やめて……ください。本当に、俺、もう……」
必死の抵抗。
おじさんの手を振り払おうにもう、見た目以上に力があってどうにも引き剥がせない。
「あっ、だめだよ。モゾモゾ動くと……おじさん余計に気持ちよくなっちゃう。君はいけない子だなぁ。ねぇ、君だって本当は興奮しちゃっているんだろ?」
「そんな事あるわけないです」
「でもほら、ここ。固くなってきてる」
おじさんのもう片方の手はいつの間にか、遙の前に回し、遙の股間をまさぐっていた。
いやらしく、緩急をつけて揉みしだく。
「……や、やめて下さい……離して下さい!」
「そうは口で言ってても、もうカチカチじゃないか……いやよ、いやよも好きのうち、だろ? ふふふ」
「……本当にやめて……下さい」
遙は、半泣きで懇願した。
知らないおじさんにもて遊ばれ、自分の身が汚されていく。
こんな屈辱、とても耐えられない。
しかし、おじさんは全く構う様子はない。
遙の固くなったモノを執拗に何度も何度も撫でながら囁く。
「君は、本当にエッチな子だな……でも、おじさん、そういう素直な子は嫌いじゃない。むしろ大好物なんだ。ぐふふ」
いつの間にか、おじさんのズボンのチャックは開かれ、そこから勃起したモノが飛び出していた。
それに気がついた遙は、驚きを隠せずに言った。
「何をするんです!!」
「だって、もう出すしかないじゃないか。こんなになってたら。さぁ、一緒に気持ちよくなろう。ほら、君も出して」
おじさんは、遙のズボンのチャックに手をかけた。
「や、やめろ! やめてくれ!」
キーッ!!
突然の事だった。
遙の耳には、バスの急ブレーキ音が入った。
それと同時に、ガクン、と膝が折れる感覚。
「え!?」
妄想から目が覚めた。
ハッとして辺りを見る。
いつもと同じ平和なバスの風景。
バスに乗り込んだ時と何も変わっていない。
(……バスに乗り込んだ時からか? ったく俺は、何であんな妄想を……昨晩見た痴漢モノのゲイビ……あれのせいだ)
嫌な汗で体がびっしょり濡れていた。
しかし、変なおじさんとエロい事をしないで済むと思えば何の事もない。
ホッと胸を撫で下ろした。
しかし、それも束の間。
何も変わっていないと思っていた車内だったが、変わっていた点が一つだけあった。
なんと、目の前の座席にはミナミさんが座っていたのだ。
遙は、驚きのあまり固まった。
そして、心臓がバクバクと打ち始め、緊張で身体が燃えるように熱くなった。
せっかく引き始めた汗が逆に滴となってポタポタ落ち始める。
それに気がついたミナミさんは、遙を見上げて言った。
「君、大丈夫? 汗びっしょりだけど」
「だ、大丈夫です」
何とか声にして答えた。
「立っているの辛そうだ。いいよ、私の膝の上に座って」
遙は、目を見開く。
(うそ……奇跡? ミナミさんが話しかけてくれるなんて……)
「ほら!」
ミナミさんはポンポンと自分の膝を叩いて促してくる。
(夢じゃないのか?)
そんな疑いは、次第に冷静になるにつれて、現実なんだと認識できるようになった。
遙は、勢いよく言い放った。
「あ、ありがとうございます!」
****
遙は、歓喜の渦の中に居た。
憧れのミナミさんの膝の上。
きっと着痩せするのだろう、思いの他、がっちりとした体。
自分の体は心地よくそこに収まり、それはまさに恋人に後ろから抱きつかれているようなシチュエーションを連想させた。
(ああ、幸せ。とってもいい気持ち。それに、いい匂い。何の匂いだろう、柑橘系の甘い香り)
遙は、夢心地でうっとりとした。
「すみません、俺、重くないですか?」
「ははは、平気だよ。気にしないで」
(やっぱり、いい声。ミナミ君と同じ。いや、それ以上……)
ふと、ミナミさんが尋ねてきた。
「君は、確か一緒のバス停で乗る子だよね? 一度話した事がある」
「は、はい! あの時は傘に入れてもらいました! その節はありがとうございました!」
「そうそう、そうだったね」
(やった! 覚えていてくれた! 嬉しい!)
それをキッカケに会話が弾み出す。
ちょっとした共通点があれば、後は芋づる式に膨らんでいく。
ミナミさんと話したい、という望みが叶った遙のテンションなら尚更の事。
「その制服、一高?」
「は、はい。そうです」
「やっぱりそうか。この辺でツメ入りは他にないもんな」
(くーっ!!! 低い声の囁き、体がゾクゾクして気持ちいいっ。最高!!)
遙は、ミナミさんとの会話に夢中になった。
一方で、とある事に気がついた。
(心なしか、ミナミさんのがお尻に当たってる。お尻の割れ目に沿うように……大きさとか分かっちゃう)
「お、お兄さんは駅までですか?」
「ああ、そう。私は、電車に乗り換えて、そこから……」
(俺のお尻の穴とミナミさんのモノの間には布が数枚があるだけ……これって、触れ合っているのと同じだよな……はぁ、はぁ、え、エッチすぎる……俺、変な気持ちになっちゃうよ)
「へぇ、そうなんですか……なら帰りは遅いですね」
「そうそう……だから、朝ぐらいは座って行きたくて……」
(ああ、それにしても何てセクシーな声。この声で名前を呼ばれて、そのまま押し倒されたりでもしたら、俺……はぁ、はぁ)
「君って、学校でモテるでしょ?」
「そ、そんな事は無いです……」
(はぁ、はぁ……俺、ミナミさんに挿れて欲しくて、肛門がひくついてパックリ開いちゃってます……それに、前だって勃起チンポから我慢汁が溢れてパンツがびしょびしょ……俺、本当はこんな変態なんです)
「でも、彼女はいるんでしょ?」
「いいえ。俺、彼女とか興味なくて……おかしいですか?」
(ああ、ミナミさんのチンチン欲しい……俺を抱いて、俺の中をかき回して……ヤバい、性欲が爆発しそう。もう抑えられない。このままじゃ、何もしなくてもいっちゃう……妄想だけで、俺、いっちゃう……)
「ふふ、可愛いね、君って」
可愛いね、可愛いね、可愛いね……。
その言葉は、遙の頭でこだまする。
(あっ、ああっ……そんなイケボで……褒められたら、俺)
プルプルッ、とおしっこの前兆のような震え。
そして、遙を支えていた最後の糸は切れた。
(……もうダメ、ズボンの中に出ちゃう。いくっ、いくっ……うっ)
プシュー、ピュ、ドクンドクン……。
遙は、口から声が喘ぎ声が漏れないよう、自分の指を噛んで必死に耐えた。
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「次は、第一高校前、次は第一高校前に止まります……」
車内アナウンスが流れた。
遙は、ブザーを押して言った。
「それじゃあ、俺はここで」
「うん。気分よくなったみたいだね。スッキリした顔してる」
「はい、おかげさまですっかりよくなりました」
「良かったね。若い頃はいろいろあるから」
「ありがとうございました」
遙は、立ち上がり軽く会釈をした。
バスが停車し、遙の去り際、ミナミさんは言った。
「ねぇ、君。今度は、遠慮せずに俺の膝の上に乗ってきていいから。ずっと立っているのは辛いだろうし、座った方が楽にすむから」
素敵なウインク。
遙は、それに胸を撃ち抜かれながらも、余裕な顔を見せながら答えた。
「はい! お言葉に甘えて!」
「ふふふ、じゃあ!」
バスは、駅に向かって走って行く。
それを見送りながら遙は、よし、と珍しくガッツポーズをした。
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朝のホームルームの後。
浩司とトイレで落ち合った。
浩司は言った。
「なんだ、遙。今日は珍しく嬉しそうだな。いい事でもあったか?」
「別に何も」
「そうか?」
念願が叶った喜び。
知らず知らずに溢れ出てしまっている。
(ふふ。今度会った時はまた座らせてもらおう。次は直ぐに声掛けれるよな)
「ところで、遙。お前、何か、匂うぞ。何の匂いだろう……」
浩司は、鼻をクンクンさせた。
「な、何だよ……」
「ああ、あれの匂いだ」
浩司は、遙の下半身を指差した。
遙は、驚きの声を上げた。
「え!?」
浩司は、手を腰に置いてわけ知り顔で言った。
「間違いない。あれの匂い。やばっ、マジでプンプン匂う。かなり濃厚な匂いだな。まぁ、気にするな。差し詰め、通学のバスで居眠りでもしてそのまま夢精ってやつだろ? よくある事だ」
「違えよ、そんなんじゃ……」
遙は、そこまで言って、ある事が脳裏に浮かんだ。
(ちょっと待てよ プンプン匂うって……ミナミさんに、俺が膝の上で射精しちゃったのバレてた? 嘘!?)
遙は、ミナミさんとの会話の断片を思い出してみた。
『勃ちっぱなしは辛いだろうから……』
『座った方が楽に済むから』
『出してスッキリした顔になってる。良かったね』
『若い頃はいろいろあるから』
サーっと血の気が引く。
(やばい……俺、エッチな男って思われた。すぐに興奮して射精しちゃう男って……俺、もう死にたい……)
そんな遙の心中はよそに、浩司は話を切り出した。
「と、ところで、お前ってさ……女に興味ないっていったよな……もしかして男に興味あるとか?」
遙は、無反応。
浩司は、恥ずかしそうに顔を赤らめて、続けた。
「ならさ、例えばだけどさ、お、俺が相談に乗れるって言ったらどうだ?……俺もちょっとだけ男に興味があって……でも、ちょ、ちょっとだけだぞ!……あれ? 聞いているか?」
浩司は、ここで初めて遙の様子がおかしい事に気がついた。
遙は、一点を見つめぶつぶつと何かを呟いている。
こんな遙の姿を見るのは初めて。
浩司は遙の両肩を掴み揺すった。
「大丈夫か? 顔が真っ青だぞ? 遙!」
虚な目で浩司を見つめる。
と、そのまま倒れるように浩司の体にもたれかかった。
「お、おい! おい、遙! しっかりしろって!」
浩司は、咄嗟に遙を抱き抱えた。
遙の意識は何処かへ行ったまま。
しかし、浩司は、念願だった遙を抱き締める事に成功し嬉しさのあまり天にも昇る気持ちになった。
「あーもう! せっかくこれからだって言うのに……何だよこれ!? 脈アリなのか? それとも脈なしなのか? とりあえず、この状況、キスはしちゃっていいよな? なぁ、遙?」
興奮して浮き足立つ浩司と、絶望の縁に彷徨う遙。
そんな親友の二人の恋物語は今始まろうとしていた。
この物語は、そんな何処にでもある男子生徒達の日常のお話……。
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