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お前が俺で、俺がお前で

来栖の家から戻った後、(ヒョウ)に本を渡し来栖に聞いたことを伝える。 表としても可能性はあるかもしれないが難しいだろう、という答えだった。 やっぱりかと少し落ち込む。 表は「来た以上帰り道もあるはずじゃ、そう落ち込むでない」なんて慰めてくれる。 そんな優しくされたら俺が泣きそうなんだけど。 表も来栖も俺のために探してくれている。 迷い込んだだけの縁もゆかりもない俺のために。 俺も何かできれば、と思うけれど表のように知識もなければ来栖のように妖の知り合いもそう多くない。 できることがかなり少なく落ち込んでいる時にコケ蔵に声をかけられる。 「よ、よよよよよよ、よう、影道。 じ、じじじじじつは、面白いもんが手に入ってよ」 そう呼ばれて行ってみるとコケ蔵の手に俺の首輪についているタグとよく似たものを持っている。 タグに書かれているのは『日森』の二文字。 俺の苗字だった。 「た、たたたたしか、お前のみょ、名字ってやつと一緒だなって思ってよ。 な、なななななんか意味あるんじゃねえかと思ってよ。 オ、オレがそのタグに呼びかけてみたけど何も反応なくてよ。 か、かかかかかっ影道なら何かできるかも知れねえな」 「コケ蔵、ありがとう!」 コケー! と叫んで鶏の姿でひっくり返っているコケ蔵を放って俺はタグを握りしめる。 『日森』と呼びかける。 すると俺の体がぐっとタグの中に引きずり込まれる感覚がする。 表や来栖のタグを使った時の感覚とは全然違っている。 踏ん張ることもできず俺はタグの中に引きずり込まれる。 「うわっと……」 体勢を整えようとしたけれど地面に足がつかない。 重力が無くなったみたいにふわふわ浮いている。 辺り一面真っ白で何もない。 何かないのか泳ぐように体を動かし辺りを散策する。 すると何か人影らしきものを発見する。 というのもはっきりと見えないからだ。 どれだけ目を凝らしてもぼんやりとした人影にしか見えない。 けれど俺はそれを『別の俺だ』と思った。 俺は声をかける。 「あ、あのさ。もしかして、お前って俺?」 『日森影道で合ってるってこと?』 「そう!」 『うん、俺は日森影道、今は妖の世界に迷い込んじゃって、でも元は人間界にいたよ』 やっぱり! しかも俺と同じ世界にいる俺だ! 「あのさ、えーっと、ここにいるってことはお前もコケ蔵のとこであのタグに触ったからなのか?」 『……? 俺はリオンからもらったタグ触ったらここに来たよ。コケ蔵ってやつは知らない』 俺はリオン、というやつは知らない。 ということはもうそこから世界が分岐しているのか。 俺は一つ深呼吸をして本題をぶつける。 「なあ、お前の方ではさ、人間の世界に帰る方法って何か知ってるか?」 『知ってる、けどそれは違う世界の”俺”が妖の世界に残るって決断をしたら。 そうすればもう一つの世界の俺は人間の世界へ帰れる。』 「それだ。なぁ、もう一人の俺。 お前はさ……人間の世界に帰りたいと思う?」 『俺は……正直わからない。 帰りたい、とも思うけど戻って何かあるのかって考えている俺もいる。 そっちの”俺”はどうなんだ』 「俺も、正直迷ってる」 人間の世界に帰れるなら帰りたい、けど妖たちは人間の世界で聞いていたような奴らじゃなかった。 そりゃ、全身舐め回す奴もいるし怖いっちゃ怖いけど…… ここで会った表や、コケ蔵は怖くないしなんなら優しいし面白い。 ここを出たらもう二度と会えないと思うと寂しい、と言うかなんて言うか…… 『なあ、どうする?』 声をかけられハッとする。 ここにいられるのもいつまでかわからない。 早く答えを出さなければいけない。 『一斉にさ、今どう思ってるか言おうぜ。 帰るか、残るのかの二択で』 「もし同じだったら?」 『そんときはじゃんけんでもして決めようぜ。一番いいのはお互いの気持ちを尊重することじゃねえのかな』 「いいこと言うな、”俺”」 『まあ、”俺”だからな』 くっくっく、と二人で笑って顔を上げる。 俺は”俺”に向き合う。 「『せーの』」 「『――――――』」 「お、おおおおおおお、おい、影道ぃ! だだだだだ、大丈夫か?! 目を開けてくれ、俺が変なもん渡しちまったから。 もしこのまま目開けなかったらオレ、どうすればいいんだ表先生!」 「大丈夫じゃ、コケ蔵。気を失ってるだけみたいじゃ。 もう少しすれば……おお、影道! コケ蔵の、目を覚ましたぞ!」 「おおおおおおおお! 影道! オレが変なもん渡したから! でも目覚ましてくれてよかったー!」 コケー! と叫んでコケ蔵が俺の上でニワトリになって倒れる。 目を開けたら表がいるしコケ蔵は叫んでニワトリになるしカオスになってて意味わかんないんだけど。 「影道、どこか痛いところはないか? このタグにおかしな妖術がかかっておったようじゃな。一回限りだったようでもう使えぬがな」 表が持っているタグは先ほど『日森』と名前が書いてあった。 だが今は名前の書いてあったところが燃えたようになっていて名前は見えない。 俺は一度目を閉じ、さっきあったことを反芻する。 相手が言ったことが本当なら…… 「表、話があるんだ」 「なんじゃ、かしこまったような表情して」 「俺、さっき別の世界線の”俺”とあってきたんだ。 そこで”俺”と話してどうするか決めたんだ」 ふーっと大きく息を吐いてしっかり表の顔を見据える。 「俺は……人間の世界へ帰る」

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