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番外編 3人の先輩
「はぁ?冴島、お前って本当頭硬いよなぁ。別にいいじゃん。性別とか気にしないで考えてみろよ。」
「いやまずお前の抱かれるなら誰がいい?って質問がおかしい。俺は抱きたい側だし」
「ひゃー!破廉恥!夏目今の聞いたぁ!?」
「俺を巻き込まないでください。」
突然立岡さんに肩を組まれて引き寄せられる。耳元に顔が近づいて、冴島さんの悪口でも言って来るのかと思えば「お前は志乃がいいんだよねぇ」と小声で言われて、体が大袈裟に跳ねた。
「立岡様には丸わかりなのだ」
「なのだじゃない!もう嫌だこの人!冴島さん!」
「うんうん、そいつとは関わらない方がいいよ。」
立岡さんから離れて冴島さんの方に逃げると、立岡さんはケラケラと笑うばかりで、恥ずかしくなる。
さっき嘘でも「違う」って言えばよかった。
「安心しなよ、誰にも言わないから」
「······言ったら死なす」
「野蛮だなぁ」
そんな話をしていると、志乃さんがたくさんの女子を連れて教室に戻ってきた。女子達は遠巻きにこちらを見ている。
「告白?」
「ああ」
「振ったの?」
「当たり前だろ。名前も知らない誰かとどうして付き合うんだよ」
至極真っ当なことを言った志乃さん。その言葉がそこらにいる女子に聞こえていたらいいんだけど。
「ねえねえ、志乃は抱かれるなら誰がいい?」
「······抱かれるなら?」
「そう。たまたまその話になってぇ」
「違うだろ。お前が急に始めたんだろ。」
志乃さんは眉間にぐぐっと皺を寄せる。それから「無いな」と一言呟いた。
「抱かれるのは無理。」
「えー、そういうもの?」
「例えば本気で好きな相手がいて、そいつにそう言われても嫌だって言うと思う。」
「まあ、俺もお前が抱かれてるとか想像できない。」
「想像しようとするな。」
くすくすと笑う。
嫌な雰囲気にならずにこんな話が出来るのも楽しい。
志乃さんも、そんな質問に真面目に考えなくていいのに。
「夏目、そろそろ授業だろ。大丈夫か?」
「あ、も、戻ります!」
時計を見るとあともう少しで授業が始まるようだった。
ギャラリーもいつの間にか減っている。立ち上がって椅子を返し、3人に軽く頭を下げて教室から出る。
こんなくだらない会話を、これからも出来たらいいなぁって思いながら。
番外編 3人の先輩
END
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