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番外編 時には甘く
「梓、こっちに来い。」
「何ー?」
志乃に呼ばれて、キッチンから志乃の座るソファーに移動した。隣に座ると「違う」と言って俺を抱き上げ膝に横向きに乗せる。志乃の腕が背中を支えてくれるから、安心して凭れた。
「触ってると落ち着く」
「え?本当?」
志乃が素直にそんな事言うのは珍しくて、胸が暖かくなる。
スリスリと、志乃の肩に頬擦りをしてそのまま首に何度も唇を落とす。
「俺もね、志乃に触ってると落ち着くんだ。それに温かいし、優しい気持ちになれる。」
「へぇ。お前も温かいぞ。子供体温だ。」
「子供体温なのいいでしょ?最近寒いからってよく俺に抱きついて寝てるよね。」
「ああ。一石二鳥だ。安心できるし暖かいし。」
ムギュっと抱きしめられて、鼻が潰れそうになる。少し苦しいけど、こうやって大切に優しく扱われると、俺のことが好きなんだなぁってすごくわかるから、嬉しくなる。
「志乃ぉ、ちょっと苦しいよ。」
「いいだろ、少しくらい。」
「少しじゃないじゃん。ちょっと力緩めて。」
力が緩まって、志乃の肩から顔を離す。
それから体勢を変えて、志乃の胸に背中をつけてもたれ掛かった。
「はい、ここに手回して。」
「お前の顔が見えないんだけど。」
「見なくてもいいの。そんな素晴らしい顔じゃないから。」
「は?お前ほどの童顔で可愛い顔はなかなかいないぞ」
「童顔っていうな!」
ちょっと気にしてるんだから。
俺だって志乃みたいにキリッとした顔がよかった。
「可愛いからいいじゃねえか。」
「男が可愛いとモテない。」
「は?お前には俺がいるだろうが。」
「そうだけど!そうじゃないの!全く······わからんちんだな。」
ツンとした返しをすると、後ろから顎を掴まれて無理矢理後ろを向かされ、噛まれるようなキスをされた。舌が入ってきて俺の口内を蹂躙する。どちらともない唾液を飲み込んで、やっと唇が離れる。
「お前のことは俺が1番わかってるよ。」
「だから······ああ、もういいや。バカ」
「バカって何だ。」
「バカって言うのは志乃って意味だよ。」
「······喧嘩売ってんな?よし、お仕置きしてやろう。」
ソファーに押し倒され、ついついケラケラと笑う。それを見た志乃も口元を緩めて、志乃に手を伸ばしもう1度唇を合わせる。優しくて深いキス。
ああ今日も志乃に甘えてドロドロに溶かしてもらおうと思いながら、志乃の首に腕を回した。
番外編 時には甘く
END
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