9 / 292
第9話 志乃side
俺を怯えた目で見るやつは多い。
仕事の都合で夜の繁華街に出向くと遠巻きに俺を見る奴らと、俺に近付き話しかけてくる奴らがいた。
「志乃さんっ!最近来てくれないじゃない!私の店に飲みに来てよ!」
「私のところにも来て!」
何の断りもなく俺の腕に自らの腕を絡めてくる女達を振り払い、一人、ネオンの色を浴びていると、トン、と体に衝撃が走った後、目の前で男が顔面を蒼白にして俺を見上げていた。
その顔はどこかで見たことのある顔で、記憶を辿れば一人の人物にピタリと当てはまった。思い違いではない、間違いない。
そして咄嗟に頭を下げて必死で謝ろうとするそいつの腕を掴む。
「佐倉梓」
「···へ?」
キョトンとしているそいつを、絶対に逃がしては行けない。腕をつかむ力を強くした。
「梓だな」
「···何で、俺の名前···?」
もう一度名前を確認すると肯定する言葉が帰ってきて、それに返事をすることなく踵を返し、俺の家に向かい歩く。
「あ、あのっ」
「············」
「し、志乃さんっ」
「···何だ」
名前を呼ばれて立ち止まり、振り返る。
ビクッと震えた梓は俺に怯えているらしい。
「ど、どこに、行くんですか。俺···早く帰って、課題、しないと···」
「お前は···大学生か?」
「はい」
そんな情報を俺は一切知らなくて、そのことに対し腹が立った。
「ならもう辞めろ。」
「え···?」
困惑を隠せない様子の梓の腕を引き、また歩き出す。
「い、嫌です、離してっ」
「暴れるな」
「離し───っゔ···」
暴れられるのは面倒で、梓の首裏に手刀を入れて意識を落とさせた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!