19 / 292
第19話
***
ガタガタと揺らされる。
身体をあちこちにぶつけて、痛みで顔を歪める俺に浴びせられるのは罵声だけ。
「···い、たい」
お腹は空いているし、体も痒いからお風呂に入りたい。
なのにこの、閉じ込められている小さい箱からは出ることが出来なくて、痛みや空腹に堪えていた。
***
「───···ずさ、梓、起きろ」
肩を揺すられて目を開けると、自分が酷く荒い呼吸をして汗をかいているのがわかった。
無意識に志乃さんの服を掴んで離さなかったようで、慌てて手を離すと、志乃さんが目を合わせてくる。
「魘されてた。夢でも見たのか」
「ぁ、あ···痛い、痛い···っ、ゴホッ、」
「大丈夫だ。落ち着け」
志乃さんが優しくそう言ってくれる。
優しく話をされたのは新鮮で、返事もできずにボーッと志乃さんを眺める。
俺が落ち着いたことを確認した志乃さんは俺の頭を撫でた。
「···とりあえず、服、着替えるぞ。すげえ汗かいてるから」
「ごめん、なさい」
「別に謝ることじゃない。それから冴島が置いていった解熱剤飲むぞ。」
志乃さんが俺から離れていく。
咄嗟に腕が伸びて志乃さんに触れようとしたところを、自制する。
この人は俺を監禁している人なのに、自ら触ろうとするなんておかしい。
「···志乃さん」
「あ?」
「志乃さんは、何で···俺を監禁してるん、ですか」
そう聞くと志乃さんは少しだけ、いつもの無表情を崩した。苦しそうに歪められた顔はすぐに元の無表情に戻ったけれど、その瞬間に志乃さんの本心が見えた気がする。
「さあな」
「···俺は、志乃さんにとって、いいもの、なんですか」
「ああ。俺にとってお前はメリットしかない。だから痛めつける気は無い。苦しい思いをさせるつもりもな。」
少し離れた場所から薬を持ってきて俺の口に薬を放り込み、水の入っているペットボトルを蓋を開けて俺に渡す。
「着替える前に、汗拭かねえとな」
「·········」
志乃さんは優しいのか、そうじゃないのか、わからない。
でも志乃さんが俺にとってメリットしか感じないように、俺にとっても志乃さんにはメリットしか感じない。
熱に侵された脳で考えると、普段なら行き着かない答えに辿り着いてしまった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!