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番外編 傷ついたので
そんな夜から一夜明け。梓は下瞼にクマを作っていた。
対する志乃も少しばかりバツが悪そうな顔をしている。
「いってくる」
「うん」
そんな居心地の悪い空間は志乃が仕事で出かけるまで続き、一人になった梓は重たい溜息を吐いた。
そしておもむろにスマートフォンを取りだし、検索をかける。
『セックス中 喧嘩』
検索結果を見ていく度に気分が下がった。
最終的に『彼氏がセックスを拒否する理由はもう自分に魅力を感じていないから。』と書かれていたページに辿り着き、床に膝を着いた。
そりゃあそうだ。何の魅力も感じられない人相手にそんな気分にはなれない。
それに昨日『勃たない』と言われてしまった。
冗談だと思ってひどいとだけ言った梓だけれど、あれは本気だったのかとガックシしてしまう。
どうにかして魅力を感じて貰えないか、必死に模索しているとピコンと閃いた。
梓は今すぐ買い物に行きたくなって、急いで知人──立岡凱に電話を掛けた。
何故苦手なはずの立岡に電話をかけたかというと、梓の閃いた内容に関して精通しているのは彼だと思ったからだ。
繋がった電話。
梓は立岡に事情を説明した上で買い物に付き合って欲しいとお願いすると、彼はアハアハと大きく笑って了承してくれた。
梓はいよいよやる気になって、慌てて出掛ける準備をした。
■
立岡は眞宮組から拝借した車で梓を迎えに来た。
助手席に座った梓は、開口一番に強い表情で「お願いします」と立岡に伝える。
「あはは、いいよいいよ。面白そうだから付き合うよ。」
「俺は真剣です」
「だからこんなに笑えるんでしょ」
未だにアハアハと笑う立岡。普段ならそんな彼に向かって腹を立てる梓だが、それよりも作戦を考えることに必死で笑い声を無視した。
立岡は車を走らせて目的地の近くにあるコインパーキングに車を停めた。
すぐに運転席を降り、わざわざ助手席の方に回ってドアを開ける。流れるようなエスコートに梓は感動して目をキラキラさせた。立岡はそれがまた面白くてまたアハアハ笑った。
ほんの少し歩いた先のビルに躊躇なく入る立岡に次いで梓も足を踏み入れた。
立岡の後を進み、辿り着いた店にゴキュっと喉を鳴らす。
「はい。俺が知る中で一番品揃えのいいお店。」
「……す。すごい」
「コスチュームならこっち。おいでおいで」
そこは明らかにいかがわしいお店だった。
成人した人間しか入れないような場所だ。
ドキドキしながら立岡に言われるがまま、梓は奥にあるコスチュームの並んだコーナーに来た。
「志乃はどんなのが好きだっけ……。学生の頃は教師とのAVを見てた気がするけど」
「きょう、し」
「ほとんど甘いシチュエーションだったな。あいつ甘やかされて生きてきてないから、年上のお姉さんに甘やかされて気持ちよかったのかもね。」
「お、おぉ……」
立岡が志乃の『人に聞かれたくない』部分を勝手に語る。
聞かされた梓もオロオロすることしかできなかった。
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