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第23話

「出掛けてくる」 「···どこ行くの···?」 俺に連絡が入り仕事に行かないといけなくなってしまった。 起き上がり服を着ると梓がそう聞いてくる。 「仕事だ。」 「···あの」 「何だ」 言いにくそうにしている梓の方を向いて、なるべく優しく問いかけると、目を合わせて不安そうな顔で口を開く。 「あの、何か···甘いもの、食べたいな、って···」 「どんなやつだ」 そんな簡単な要求にならいくらでも答えてやる。 梓は少し嬉しそうに顔を綻ばせ、「チョコレートのドーナツ」と言った。 「わかった。帰ってくる時にでもいいか。今すぐがいいなら部下に頼んで···」 「ううん。帰ってくる時でいい。ありがとう」 ベッドの上で、動けない梓に近づきキスをする。 「ん、ふ···」 「梓」 「···ぁ、何···?」 さっきの行為で疲れたのか眠たそうにしている梓。頬を撫でるとその手を掴まれて「そのまま」と可愛らしいことをする。 「志乃が行っちゃったら、また1人だ」 「···1人が嫌か?」 「別に。志乃のこと考えなくていいし、気楽でいれるから嫌じゃない。」 よく本人を目の前にそんなことが言えるなと思ったが、梓は続けて言葉を落とした。 「···でも、ちょっとだけ、寂しい」 視線をそらしてそう言った梓。 抱きしめて首筋に唇を落とす。 「し、の···?」 「早く帰ってくる」 「···いいよ。早く行って」 梓に胸を押されて仕方なく離れる。 支度を済ませて部屋を出ようとすると「ドーナツ、忘れないで」と言われ、思わずフッと笑ってしまった。 「わかってる。じゃあ、行ってくる」 「うん。行ってらっしゃい」 そうして家を出た俺は、今すぐにでもドーナツを買って帰りたかった。

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