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第25話
3時間もしないうちに志乃は帰ってきた。
その手には可愛らしいドーナツの入った箱を持っていて、似合ってなさに思わず笑ってしまう。
「買ってきた」
「ありがとう。」
志乃から渡されたその箱を開けると、中にあったドーナツの量が異常で「え···」と声を漏らしてしまう。
「何でこんなに、しかもチョコレートのばっかり」
「どれがいいかわからなかったから、チョコレートのを全部買った」
「お金の無駄遣い」
「お前が食えば無駄じゃなくなる」
スーツから部屋着に着替えた志乃はそう言って煙草を吸いにベランダに出る。
「志乃」
「あ?」
そんな志乃を引き止めてまで聞くような内容じゃないけれど、それでも知りたい。
「俺って、志乃にとっての、何なの」
「············」
訝しげに俺を見た志乃は、手に持っていたジッポーに煙草をテーブルの上に置いて、俺のすぐ近くにやって来る。
「それを聞いて、どうする」
「···ううん。ただ、知りたかっただけ。」
「何で」
「だって、監禁されてるんだもん。何のためにここにいるのか知りたかったから」
本当はただ純粋に、志乃にとって俺は何なのかを知りたかった。けれど言い訳みたいに理由を探す俺は弱い。
「···俺にとってお前は──···」
志乃の手が頬に触れる。
ほんのりと優しい温かさに擦り寄りたくなるのを堪えて、志乃の目を見つめる。
「──···何だろうな。わかんねえ」
その言葉に落胆した。
いや、確かに勝手に少し期待をしていたのは悪かったけれど、監禁しておきながらそれは無い。
「···やっぱり嫌いだ」
「···お前が欲しかった答えは何だ。」
「言わない。ドーナツ食べる」
「おい梓」
ぐるっと振り返って志乃に背中を向けると、肩を掴まれて先に進めない。
「俺にとってのお前が何なのかはわかんねえけど、どうでもいい奴を家に置こうとは思わねえし、そうやって枷もつけたりしない」
「···どうでもいい奴と比べられても嬉しくない」
「なら、言い方を変える」
グイッと肩を引かれ、腕を強く持たれたかと思えば引き寄せられる。
「お前は俺の特別だ。」
そう言われた瞬間、監禁されてる筈なのに、胸の中が温かくなって、なぜだか凄く嬉しかった。
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