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第26話

「志乃は酷い」 「はあ?」 さっきの甘い感情は忘れたことにしてそう言うと、志乃が眉を寄せて俺を見た。 その顔は整っていて、凄まれるよと余計怖くて、手に持っていたドーナツを落としそうになる。 「今だから言うけど、俺に犬用の皿で食事をさせようとしたり···」 「だから、あれはテメェの手が使えなかったからだろうが」 「使えなくしたのはそっちなのに」 「···面倒くせぇ」 「面倒臭いって···事実なのに!」 カチンっときて勢い余りそう言うと志乃はふっと笑う。 「お前、俺に反抗するようになったな」 「し、したくも、なる」 「別にそれに対して怒ったりしねえけどな。」 志乃はそう嬉しそうに言う。 「前にも聞いたけど、志乃は俺をどうしたいの」 「その答えは前と同じだ。」 冷たくピシャリと言われて前に言われた言葉を思い出す。 確か、志乃がいないと死ぬように、だったっけ。 思い出していると志乃は続けて言葉を落とした。 「でも1つ加えるなら、お前が苦しまなくていいようにしてやりたい」 「···それ、どういう──」 「それ食ったら手洗ってこい。ヤるぞ」 「え、何を···?」 「セックス」 恥ずかしげもなく言い切った志乃に、逆に俺が恥ずかしくなる。 「さ、さっき散々したっ!」 「お前が元気そうだからな」 そんなことない!と叫びたかったけれど、それよりも早く志乃が「早く食え」と言ってきたので渋々ドーナツを口に放り込んだ。

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