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第30話 志乃side
怯える?この俺が?
俺の腕の中で眠る梓を見て、さっき梓に言われ驚いた言葉を心の中で何度も繰り返した。
そしてやはり、俺が何かに怯えるなんてことがあるはずが無く、梓の言った言葉の意味を探すのに疲れ始めた頃、時計の短針は6を指していた。
「···寝れなかった」
無防備な寝顔を見せる梓のせいで、俺はあれから一睡もできなかった。
梓を起こさないように起き上がり、寝室を抜けてリビングに出る。
コーヒーを入れて椅子に座り、時間を過ごしていると、のそのそと梓がリビングに現れて、何かを言うことも無く、ソファーに寝転んだ。
起きてきたのに寝るのか。
近付いて顔を覗けば「何···?」と閉じていた目を開けて聞いてくる。
「寝るならベッドで寝ろ。」
「······、寝てない」
「嘘つくな。今寝てただろ。」
「···もう動けない」
なら本当に、どうしてここまで来たんだ。
梓を抱き上げベッドに連れて行くと、また眠った梓に溜息を吐く。
時間はまだ7時になったばかり。
1人リビングに戻り、煙草を吸って時間を潰した。
少しすると携帯がなり、画面を確認すると立岡からの電話だった。
「何だ」
「今お前の家の前。玄関開けろ」
「あ?」
「早く、腹減った。何か作って」
仕方なく玄関を開けると立岡がいて、無遠慮にもズカズカと部屋に上がりこみリビングのソファーに座る。
「志乃の作った卵焼き食べたい」
「···まずこの時間に連絡も無しに来たことを謝れ」
「すみませーん。卵焼きくださーい」
「デケェ声出すな。梓が起きるだろ」
そう言うと立岡は俺の方を振り返って「顔みたいな、梓君の」と馬鹿なことを言う。
「寝てる。それにお前に会わすつもりは毛頭ない」
「パートナーなのに?」
「ああ。」
立岡に返事をしてキッチンに入る。
リクエストされた卵焼きを作ろうと冷蔵庫を開け、卵を取り出して、閉める。
「っ!」
「···········」
すると開けた時には居なかったはずの梓がそこに居て、掛け布団を体に掛け、包まりながら俺にポンッと軽くもたれてくる。
「起きたのか?」
「···何作るの」
「卵焼き」
「···誰の?」
梓の質問に答える前に「なあなあ卵焼き、ネギ入れて」と図々しく注文してくる声が聞こえてきて、梓は俺を見て眉を寄せる。
「誰?」
「···立岡っていうやつ」
「何でいるの?」
「突然来た。」
「そう」
知らない奴がいるリビングに行くのは嫌なのか、キッチンの床にそのまま腰を下ろした梓。
梓の頭を撫でてから卵焼き作りを再開した。
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