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第32話
「悪い志乃。親父さんからの伝言忘れてた。」
「あ?」
「”見つけたなら見せに来い。”らしい」
面倒な伝言。ここに来て1番にそれを伝えて欲しかった。
「わかった。···梓、お前も出掛けるぞ」
「えっ!?」
梓は驚いて俺の方を勢いよく振り向いた。
「で、出ていいの!?」
顔をキラキラとさせている梓。
腕を掴まれ食い気味に聞かれる。
「ああ。とりあえず出かける準備をしろ。先に言っておくが、逃げても無駄だぞ。警察に行ったって意味が無い。俺達は警察とも繋がっているからな」
「···逃げないよ」
「そうか、ならいい」
梓の足に着けている枷。
一瞬、梓がそれを見て悲しそうな顔をした。やはり、外に行けることを知った時の反応と、先程の表情から、外に行きたいのだと知る。
「志乃、車で行くのか?」
「ああ。お前はどうするんだ」
「俺はまた別の件で呼ばれてるから行く。だから乗せてって」
「わかった」
空になった食器をキッチンに持っていった立岡。
瞬間、梓が振り返って俺を睨みつける。
「···お風呂入るから、連れて行って」
「体が痛えのか?」
「違うけど、とりあえず連れて行って」
そんな我儘は面倒だと思いながらも、梓を抱き上げ、風呂場まで連れて行く。
「志乃」
「あ?」
「俺のちゃんとした服あるの?」
「ある」
梓を風呂に押し込んで、着替えを取りに向かう。
「梓君、懐いてるね」
「お前、何を見てるんだ?あれのどこが懐いてる。」
「ん?全部。···でもお前、そういうの疎いもんな。」
そう言われてどういう意味がわからず、とりあえず梓の服を持って風呂場に戻った。
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